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-ガク-コンサートマスター⑦

演奏が終わると、壇上の奏者たちが次々と捌けて行った。 イオリも指揮者と握手をし、客席に向かって一礼した後、凛とした佇まいを崩さないまま去って行った。 演奏会の終演後、皆が席を立っていく中、ガクは暫くその場から動けなかった。 自分が今まで体験したことのない類の感動を覚え、その余韻から抜け出したくないと感じていた。 人の波も落ち着いて来たころ、ようやくガクは席を立つと、ホールを出た先にあるロビーに出た。 するとそこでは、先ほど演奏をしていたと思われる、ドレッシーな服装をした学生たちが、至る場所で観客と話し込んでいる光景が目に入った。 「パパ、ママ、来てくれてありがとー! 私のヴィオラどうだった?」 「練習の成果が出せて良かったです! これも個別指導をつけてくださった先生のお陰です!」 「次の公演はいつだったかしら?」 終演後、出演者と観客が会って話せる時間があるコンサートは珍しくない。 今日この場でも、演奏をした学生と、それを見に来た保護者や友人、クラスメイトたちが仲睦まじげに話している様子が見てとれた。 ガクがそんな彼らを微笑ましく思いながらロビーを見渡してみると、一際大きな人だかりができているエリアを見つけた。 「素晴らしい演奏だったよ。 卒業したら、うちの楽団に入るのはどうだろう?」 「海外留学の予定はある? 色々な推薦を受けていると思うけど、我が社ならば金銭面のサポートができるよ」 「イオリさん、サインお願いできますか……!?」 輪の中心にいたのはイオリだった。 オーケストラ楽団のスカウト、企業からの声掛け、ファンらしき人々からの握手やサイン、花束や菓子の差し入れ。 圧倒的に人が集まっているのを見て、ガクは当然だとも思ったが、この人だかりを掻き分けて話しかけに行く勇気は起こらなかった。 もとい、イオリと一ヶ月連絡を取っておらず、どう声をかけて良いのかが分からなくなっていた。 ガクはイオリが一人一人に対応しているのを見て、半ば諦めた気持ちでその集団に背を向けた。 すると—— 「ガクさん」 ガクの背後から、懐かしい声が追いかけて来た。 「ガクさん。少し話しませんか——」

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