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-ガク-路地にて③

ガクはにこっと微笑みかけた。 道に迷った子どものように視線が定まっていないイオリを、どうにか安心させてあげたい、と言う気持ちになった。 「……はい……」 イオリは返事に惑うように、ティースプーンをかき混ぜながら言った。 「思ったんだけど——好きなの?」 「え?」 「レモンティー」 ガクは、イオリが追加でレモンを絞っているのを見て尋ねた。 「いつも飲んでるなあと思って」 「……ああ」 「レモンティーが好きなんて、ちょっとおしゃれだね、イオリ」 「別に好きじゃないですけど」 「ええ……!?」 ガクは目を丸めた。 じゃあ毎回毎回、レモンティーを注文してるのは何故なんだ。 そう思っていると、イオリはこんな話を始めた。 「紅茶は、飲むと血流量が上がって、前頭葉が活性化するそうです。 加えてテアニンというアミノ酸がアルファ波を増加させるため、リラックス効果も生まれます。 あとレモンに含まれるリモネンという成分は集中力を高める効果もあり、 なのでレモンティーを飲むと、人とのコミュニケーションをより積極的に取れるようになるという研究データがあります」 「……つまり……」 テアニンとかリモネンとか、色んな成分の話が出て来たけれども。 「俺との会話を弾ませるために、あえてレモンティーを摂取してくれていた、ということ?」 ガクが問いかけると、イオリは少し間を置いた後、こくりと頷いた。 なんて健気なんだ!! そして努力虚しく、そんなに会話は盛り上がっていない!! ガクはイオリの言動に胸をきゅっと締め付けられる思いがした。 「へーそうだったんだ! じゃあ俺も、普段はコーヒー派だけど、人と話す時はレモンティー飲もうかな」 「ガクさんには必要ないと思いますけど」 「俺にもレモンとティーが必要だよ。 だってイオリと話す時、どうしても緊張しちゃうもん」 ガクが言うと、イオリは若干しゅんとした表情を見せた。 「そうですか……。 やっぱり僕、硬いんですね。 自分の緊張をほぐす事にばかり意識がいって、ガクさんを緊張させないようにという配慮がまるでなかった」 「あっ——いやいや!」 ガクは慌ててそれを否定した。 「そうじゃないよ。俺が勝手に緊張しちゃっているだけだから! てか、よく考えたら今はもう緊張してない!超ラフ!!」 「でも、バイト先の女性や、さっきの高校生と話している時のような ラフな口調や表情ではないですよね、今」 「うっ」 ガクは苦笑いを浮かべつつ、しかし真剣な面持ちを取り戻して言った。 「そうだな……確かにまだ緊張はしてる。 でも、許してほしい。 イオリは友達でも教え子でもなくて、俺にとって唯一無二の存在だから」

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