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-ガク-路地にて⑧

こうして、何の予定も入れていなかったその週の土曜日、ガクは翼と仙川のゲームセンターへ出掛けた。 「じゃあ、私のお小遣いを先生に預けます!」 「おけ。この小銭が最後の一枚になるまでに、ヒロトくんを落とせばいいんだな?」 「小銭がなるべく余ってくれたら、尚良しです!」 「りょーかい。沢山余らせたら、君のお母さんに時給アップの相談よろしく!」 そんな冗談めいた約束を交わし、機械にコインを投入したガク。 「先生っ!もっとアームは右に寄せたほうが良くありません?!」 「それはトラップってもんよ。 ここは敢えての左寄せで……」 「あっ!ぬいの頭のストラップにアームの先が掛かった!」 「ほらごらん」 二人でやいのやいの言いながらも、五回目で『ヒロトくんのぬい』を獲得するのに成功したガク。 「きゃーっ!!先生、ありがとうございます!」 翼はぴょんぴょんと飛び跳ねながら、何度も礼を言った。 歳下の女の子に感謝されるのは悪い気がしないな、と思いながらも、ふとガクの頭にはイオリの顔が浮かんでいた。 イオリはゲーセン行ったことあるかな? やっぱ音楽やってるし、太鼓の達人とか、プロジェクトDIVAとか得意なのかな。 想像がつかないけど、ダンスダンスレボリューションでキレッキレの踊りを披露してくれたら、爆笑しちゃうかも。 ガクがそんなことを考えながらニヤついていると、いつのまにか翼がガクの顔を覗き込んでいた。 「——ね、先生! 小銭もめちゃくちゃ余ったことですし、このお金で豪遊なんていかがです?」 「え?」 「カラオケ行きましょ、先生!」 カラオケか……。 ゲーセンは翼さんのモチベーションアップと、ヒロトくんを熱心に推してもらう目論見でやって来たけれど、 この流れで二人でカラオケに行くのは、流石にデートと呼ばれる類になるのではないだろうか。 「あー……。残ったお金は自分のために取っておきなよ。 ヒロトくんの新しいグッズが出るかもしれないし」 「それこそ、自分のために使うんですよ! 先生とカラオケしたいです!!」 「いやあ、でも、さすがに女子高生に奢ってもらうのはね。 先生にもプライドってものがあるのよ。 そして先生は貧乏なので、奢ってあげられるようなお金も持っていないという」 すると翼は、しゅんと首を垂れた。 ストレートの長髪が、さらりと顔周りに落ちる。 「そっかぁ……。 ヒロトくんの持ち歌、練習したかったんだけどなあ……」 「ヒロトくん、楽曲も出してるんだ」 「それにママには普段からカラオケ禁止されてるから、友達とも行けない。 クラスで流行ってる音楽も、どんどん話題に取り残されちゃう……」 「大丈夫だよ、そのうちクラスのみんなも受験の話一色になるから」 「今日パーッと遊べたら、明日からもっともっと勉強に本腰を入れて、次はA判定を目指せるのになあ……」 「……」 ガクは、てこでも動かなそうな翼を前にして、長いこと悩んだ末にこう言った。 「……今日だけ、だよ?」

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