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-ガク-音楽一家⑦
イオリはシャツを頭の上まで捲り上げると、上裸の状態でベッドの上に腰掛けた。
「律人さんが付けた痕なんでしょう?
ガクさんも——好きに触っていいですよ」
ガクはイオリの隣に座ると、おずおずと指先をイオリの腹に乗せた。
「ここ、痛む?」
「最近できた傷跡は、お風呂では沁みたりもしますが。
でも生まれつきの痣は、触っても全く痛くないです」
「そっか……」
ガクは痣のあたりを中心に、指先で優しくなぞった。
「っ……」
イオリの身体がひくりと跳ねる。
「……嫌だったら、言って」
「いえ……。くすぐったいだけです……。
……ッ……」
ガクの指先が動くのに合わせ、イオリは浅い呼吸を繰り返す。
ただ痣に触れているだけなのに、イオリの吐息や身体の震え、時折漏れる消えそうな声を聞いていると、ガクの頭は次第に麻痺してきた。
何かとても、良からぬことをしているような、謎の背徳感。
早いところ指を引っ込めるべきだ、とも思ったが、イオリの身体から手を離したくない、というジレンマにも襲われた。
キスしたい。ハグしたい。
エッチがしたい。
そんな衝動に、何度も負けそうになる。
相手がイオリじゃなかったら、その欲求に負けていたかもしれない。
しかしガクは、そんな衝動を精一杯理性で押し込めた。
イオリの嫌がることはするな。
強引に身体に触れるのは、それこそイオリの両親がしている体罰に近いものがある。
イオリの方から求めてこない限り、俺がこの先を踏み越えていってはいけない。
イオリが好きだから——
「……ガク、さん……」
ガクが暫く葛藤と戦っていると、不意にイオリが口を開いた。
「おなか……、お腹なのに、そんなに触られると、だんだん変な感じになってきます……」
「変な感じ?」
「……うまく言えない、けど……っ」
「もう触らないほうがいいかな」
「……」
イオリは乱れた呼吸を整えながら、ガクの顔を覗き込んだ。
互いの眼差しが艶っぽく絡み合う。
「……触って……ほしい……」
イオリが小声で言うと、ガクは
「ベッドの上に、仰向けになれる?」
と言った。
イオリが言われたまま身体を倒すと、ガクは四つん這いになり、痣のところを舌で撫でた。
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