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-ガク-音楽一家⑨

イオリがどこか罪悪感のあるような声音で言うため、ガクはなんだか申し訳ない気持ちになって来た。 「確かに俺、付き合ってすぐのイオリ相手に 泊めてと言ったり、腹を舐め回したりしてキモいよな……」 「いえ、それは僕が良いと言ったので、構わないですが……。 こんな風にすぐにあれこれ受け入れるのは、弊害が起きないかと心配なんです」 「弊害って?」 「……僕が、軽い人間だと思われないか……とか。 ガクさんが僕のこと、すぐに飽きてしまわないかな……とか……」 イオリが所在なさげに言うと、ガクは小さく噴き出した。 「ははっ……! そんなこと言ったら、俺もイオリにまたチャラいとか言われないか心配してるよ?」 「実際、チャラいじゃないですか」 「でも結構、真面目なとこもあるよ」 「どの辺ですか?」 「真面目に勉強するし、真面目にバイトするし——真面目にイオリのことが好き」 「……ふ」 今度はイオリの方が小さく噴き出した。 ——その後二人は、キッチンにあった材料で適当な料理を作り、 交代で風呂に入ると、ベッドの上で何時間もお喋りをした。 まるで一緒に暮らしているような、そんな錯覚を抱きながら。 お互いのこれまでのこと、まだ話していなかった沢山のことを語り合った。 生まれ育ちも、性格も考え方も、何もかもが違う。 ただのクラスメイトとして出会っていたら、友人同士にすらなれたか分からないほど、二人に共通点はなかった。 ただ一つ、前世からの繋がりがあること。 それだけが二人を結びつけた唯一の共通点だった。 ——けれど、今は。 やがてベッドに横になって話すうちに眠ってしまったイオリの髪をそっと撫でながら、ガクは思った。 けれど今ここにいるのは、この時代に出会った『ガク』と『イオリ』という人間が築き上げている最中の二人だ。 前世からの繋がりは、きっかけでしかない。 今ははっきりと、俺は俺としてイオリのことを好きだと感じている。 そしてイオリも、前世の記憶を持っていなくても、俺のことを受け入れてくれた。 二人の関係は、ようやくここから始まっていくんだ。 大切に、大切にこの関係を育てていこう—— ガクは祈るようにイオリを見つめた後、始発の電車に間に合う時間にアラームをセットし、やがて自分も眠りに落ちて行った。

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