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-ガク-軟禁②

ガクは仰天しながら、そろそろと窓枠を動かしてみた。 しっかりと鍵が空いている。 こんな豪邸なのに不用心な…… こんなんじゃ、俺のような不審者が入り放題じゃんか。 ガクは心の中でそう言いながら、窓のへりに足を掛けた。 幸い、少し跳ね飛べば入れる高さに窓があった。 イオリが侵入者に驚いて大声を上げてしまわないかだけが心配だったが、ガクが身体を全て室内に忍び込ませた時、ようやく気がついた。 イオリは部屋の中にいなかった。 だとすると、イオリはどこへ? 恐らくスマホを没収されていると考えると、外出してるってことはないよな。 あんな躾に厳しい両親がいて、夜遊びするなんて考えられないし バイオリンを触らなかった日が人生で数えるほどしかないのなら、旅行にだってほとんど行ったことはないはずだ。 スマホを持たずに外に出ることが想像もつかなかったガクは、 イオリはきっと家のどこかにはいるだろう、と確信していた。 探すか? 探しに行っちゃうか——? 自分のしていることが、完全にラインを超えた行いである自覚はあった。 不法侵入。 両親に見つかったら、警察に突き出される真似をしている。 けれど彼らだって、イオリの身体につけた傷を第三者に密告されたらどうだろうか? 悪いことをしているのはお互い様だろ。 ガクは、自分がイオリの両親から何か攻撃をされたわけではないものの イオリに傷を与える彼らのことを敵視していたため、 彼らの本拠地で悪事を働くことへの罪悪感は勝手に薄れていた。 よし。見つかったら、その時はその時だ。 いずれにせよ、このままじゃイオリと連絡を取ることも叶わない。 本物のイオリを見つけてみせる。 イオリはそろそろと廊下に出ると、足元の位置にあるいくつかの常夜灯を頼りに室内を徘徊した。 ピアノのレッスン部屋、人影なし。 バスルームもトイレもランドリールームも。 そこには誰もいなかった。 残るは鬼門の二階——いや。 ガクは、一階にもう一部屋あることを思い出した。 防音室。 ガクは一縷の望みを託し、防音室の前まで来た。 当然ながら防音のため、中の音は聞こえない。 開けて確かめるしかなかった。 神様—— ガクは、無宗教であるにも関わらず、いつの間にかそう心の中で祈った。 そして扉を開けた先に——居た。

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