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-ガク-軟禁④
ガクはそう言って注意した後、それから自分が窓から侵入してきたこと、一階を探索していたことを話した。
「……本当に、二階に行く前で良かった……」
イオリは心から安堵するように息を吐いた。
「両親に見つかったら、ガクさんまで何をされるかわからないですから」
「俺は別に何されたっていいよ。
殴られても、警察に突き出されても」
「それは僕が嫌ですよ」
「正直、なるべくなら俺も避けたいよ、それは。
まあ結果的にイオリがここにいてくれて助かった。
——いや、助かるとか言っちゃダメだよな」
ガクは、この二週間でげっそりと痩せ細ったイオリを見て言った。
元々華奢な身体が、風が吹いたら倒れそうなほどにやつれており、健康状態が不安になるレベルであった。
「……ちゃんと食べて、ちゃんと寝てた?」
「……食事は一日一回、睡眠は毎日四時間くらいは……」
「人として生きられるギリギリのレベルじゃん。
——なんでそこまで追い詰められてるんだよ。
さすがに、今までずっとこんな生活ってことはなかっただろ?」
ガクが心配そうに見つめると、イオリは少し気まずそうに視線を床に向けた。
「……実は……バレてしまったんです」
「え?」
「この前……ガクさんを泊めた日のことが……」
「!?」
ガクが顔を真っ青にすると、イオリは申し訳なさそうに経緯を語った。
ガクを送り出した後、母親が帰ってきた。
冷蔵庫を開き、食料の減り具合をチェックされる。
普段小食なイオリのはずなのに、二人分のミールキットや惣菜が無くなっていることに気がついた母親は、続いてイオリの自室に入った。
イオリのベッドの上には、イオリのものとは違う髪質の毛が残っていた。
柔らかくウェーブした、少し茶色がかった髪のイオリからは抜けることのない、真っ黒でツンと真っすぐな髪。
食事の量と髪の毛から、女を連れ込んだわけではないと判断されたものの、
男友達と思われる人物を黙って連れ込んだということを確信した母親は、そのことを後から帰ってきた父親に報告。
父親はイオリに状況証拠を提示し、イオリが認めるまで正座でその場に待機することを命じた。
やがて足が痺れ、尿意も催したイオリは、ようやく『男の子を一人、家に招待した』ことを白状した。
すると父親はイオリを殴りつけた後、
『自分が目を離すとすぐにサボりたがる。遊びたがる。それではプロにはなれない』
と言い、イオリに今の生活を命じたという。
バイオリンは朝起きてから、食事や入浴を除き、深夜三時まで練習すること。
防音室の空気が薄くなってきたら休憩してもいいが、休む時は断りを入れに来ること。
深夜の練習が終わったら、書斎まで報告に来ること。
父親は明け方まで書斎で作業をしていることが多く、夜型の生活を送っていたため
自分が寝る時間までイオリがサボらず練習するよう、そうルールを強いたのだった。
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