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-ガク-夏の逃避行①
「おはよ、イオリ」
イオリが目を覚ましたことに気付いたガクは、フライパンに調理しておいたチャーハンを温め直した。
「チャーハン作ったけど食う?
朝からじゃ重いか——って言ってももう昼だけど」
イオリは瞼を擦ると、
「……え?」
とあたりを回した後、ぼんやりと訊ねた。
「昼……?」
「今12時だよ」
「……うそ」
イオリは呆然としながらもベッドから降りると、シーツと掛け布団を直していった。
「あ、いーっていーって!
我が家ではベッドメイキングとか要らんから!」
ガクは調理場からそう声を掛けると、皿の上に温めたチャーハンを乗せてイオリの方までやって来た。
「俺ら、始発に乗って調布に着いたの6時くらいじゃん。
6時間も寝てないけど、二度寝しなくて平気?」
「……こんなに長く寝たのは久しぶりです」
「それだけ疲れてたんだな」
ガクは二人分の皿をテーブルに置くと、
「俺、午後からカテキョのバイト入っててさ。
とりあえず飯食っちゃうね」
と言い、スプーンを手にした。
「っ、僕もいただきます」
イオリは予備の歯ブラシを貰って軽く歯を磨くと、ガクの向かいに座ってスプーンを取った。
「いただきます……」
チャーハンを口に運ぶと、イオリはその後二口、三口とスプーンが止まらなくなった。
「はは、美味い?」
「美味いです」
もぐもぐと夢中でチャーハンを食べながらイオリが言う。
「市販の冷凍チャーハンも美味いけどさ、これは俺のオリジナルレシピなんだよね。
イオリの口に合って良かった!」
「……自炊、するんですね」
「まあな。物価高になってから、自炊するにも高くつくようになったけど。
学校にいる時は基本学食だし」
「凄いです。僕、料理したことない……」
「料理、やってみる?」
「やってみたいです」
「じゃ、バイト終わったら一緒にスーパー行こ」
——今が夏休みで、ほんと良かった。
ガクは心から思った。
普段は授業に出て、サークルやバイトに行ってと外で活動する時間が長いため、家に居る時間がほとんどなかった。
だが夏休みに入った今ならば、バイト以外の時間はイオリの側にいることができる。
「スマホ——は、持って来れなかったもんな。
家の鍵を渡すから、外に出たくなったらこれ使って」
ガクはバイトへ行く支度を済ませると、イオリに鍵を手渡した。
シャワーの使い方など家の中のことを軽く説明した後、ガクはアパートを出て自転車に飛び乗った。
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