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-ガク-夏の逃避行④

バイトが終わると、ガクは真っ直ぐにアパートへ帰った。 「ただいま!」 元気にドアを開けると、窓際に座り込むイオリの姿が目に入った。 イオリが自分の家にいるなんて、一晩経った今も信じられない。 「……あ、おかえりなさい」 窓を開け、空をぼんやりと眺めていたイオリがガクに視線を向けた。 おしゃれ雑誌のカバー写真か、と突っ込みたくなるほど、気怠げな表情で壁にもたれるイオリの姿はサマになっていた。 長い手足を無造作に投げ出し、片膝を立て、そこに膝を乗せて頬杖をついている。 「空、見てたの?」 「はい」 「本棚の漫画とか、ゲーム機とか……勝手に使って良かったんだよ?」 「……そういうの、あんまり見慣れてなくて」 イオリは顔から手を離すと、ゆらりと立ち上がった。 「ぼうっとするのが楽しくて、気が付けば時間が経っていました」 「ぼうっとするのが……楽しい……?」 「何にも追われてない時間って、とても貴重だなと思って」 そうか。 イオリのこれまでを考えれば、何もしなくていいことが贅沢な時間の使い方なんだろうな。 「……ははっ。ぼうっとするのも楽しいかもだけど、人と一緒に何かするのも楽しいよ。 ——ってことで、お待たせ!スーパー行こっか」 ガクは出掛けようとして、 「あ、その前に」 とスニーカーを履くのをやめた。 「シャワー使った?」 「はい、借りました」 「服……は、昨日のままか。そりゃそうか」 ガクはクローゼットの中を漁ると、適当なスウェットを引っ張り出して渡した。 「今着てる服は洗濯しよ。 着替えは俺の服を勝手に選んで着ていいから。 今日は近場のスーパー行くだけだし、スウェットで良いよな?」 「スウェ……?」 イオリは聞き慣れない言葉を耳にし、困惑した表情を見せた。 「もしかして、着たこと——」 「ないです。着てる人を見たこともない」 「マジかよ」 でも、母親が買ってきたブランドものの服しか着させてもらえなかったなら、 スウェットを着たことがないのも当たり前っちゃ当たり前か。 「とりあえず着てみなよ。着心地良いから!」 ガクに促され、脱衣所で着替えてきたイオリ。 ガクは、イオリのスウェット姿を見て思わず噴き出してしまった。 「……っ!やば……、こんなにスウェット似合わない人、初めて見たかも……」 「脱いだ方が良いですか?」 イオリが困惑の表情を浮かべると、ガクはふるふると首を横に振った。 「いや、逆にそのミスマッチ感が良いかもしれない。 なまじモデルが良いせいで、最先端の流行を狙った前衛的ファッション、って感じに見えてきた」 「はぁ……」 「こういうのを、翼さんの言葉を借りるなら『ビジュ強』って言うんだろうな」 「なんですかそれ」 「いいから、さ、行こ行こ!もう腹減って来た!」

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