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-ガク-夏の逃避行⑭
「星空かあ。——いいね!
星空が綺麗に見えるところ、探してみよ」
ガクはスマホで調べようとして、「あっ」と声を上げた。
「やば……もうすぐギガ使い切るじゃん」
「ポケットWi-Fiとか、建物に光は通ってないですか?」
「ないんだよねえ、どっちも。
だからWi-Fiあるとこでしか動画も見れないし、不便なんだよね。
——しゃーない、また利用するかぁ」
「何をですか?」
「大学図書館!調べ物する時は、学習スペースに置いてあるパソコンをよく使うんだよね。
今夏休みだし空いてるだろうから、明日行ってみよ。なっ!」
「僕も入っていいんですか」
「一般の人も使える場所なんだから入れるよ。
よし決まり!明日星空の見える町を探そう」
二人はその後寝る支度を済ませると、ベッドと床でそれぞれ布団に入った。
今日も一緒のベッドで眠れないか、とガクは期待したが、
昨晩はイオリが悪夢にうなされて怖がっていたから口実を作れたに過ぎない。
堂々と一緒に寝ようと誘うことも考えたが、ここ数日でさすがに距離を詰め過ぎたような気もしており、
またイオリから引かれるのが怖かったガクは、結局声をかけずじまいに終わった。
——翌日、その日は夜からのバイトしか入っていなかったため、ガクはイオリを連れて電通大のキャンパスへやって来た。
「ここがガクの通ってる大学ですか」
「そだよ。藝大みたいに立派なホールはないけども」
二人が歩いていると、夏休み中でもサークルやゼミなどで出入りしている学生の姿をそこそこ見かけた。
時折、授業が一緒になったことのある生徒や学内のイベント事で知り合った生徒などともすれ違い、「おつー」と軽い挨拶を交わして歩く。
「顔が広いですね」
「そういうイオリだって、演奏会の後のロビーで人だかりができるほど人気だったじゃん」
「あれは……、そういうのじゃないというか……」
イオリは少しだけ寂しそうに俯いた。
「僕が言った顔が広い、というのは、ガクには親しくしている人が多いんだなという話で……。
あのロビーにいた人たちは友人ではないので、ガクの顔の広さとは意味合いが違います」
「イオリ友達いないの?」
ガクが軽い気持ちで聞くと、
「っ、いますよ……!」
と、イオリは心外とでも言いたげな表情を浮かべた。
「います、けど……。
音楽科は女子の比率が高いので、普段交流があるのも女の子ばかりで……。
でも性別が違うと、距離感があるじゃないですか。
壁というか、踏み込み辛い領域があるというか……」
「そう?俺は気が合う人と性別は関係ないと思うけどなあ」
「……ガクなら、女の子とも垣根を超えた友情が育めると?」
「うん」
「では女友達がそのまま彼女になった、という経験も今まで無いと?」
「……あるかも」
イオリがむすっと膨れてしまったため、ガクは慌てて
「いや!ない!なかったと思う、多分!」
と言ったが、遅かった。
「友達の境界を超える可能性があるなら、友情は成立しないじゃないですか。
僕はそうなるのが怖いので、クラスの女の子たちとは仲良くはしますが、一定の線引きをしてしまうんです」
「……もしかして、最初に会った時に『友達からでいい』って俺が言ってさ、
『友達からというプロセスを踏む必要はない』ってイオリが返したのって……
はじめから俺のこと、恋愛対象として見てくれてたからってこと?」
ガクが期待した眼差しを向けると、イオリはツンとした表情で言った。
「いいえ?」
「照れんなよ」
「照れてるように見えます?」
イオリはそう返した直後、目の前に図書館の看板を見つけた。
「着きましたね」
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