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-ガク-夏の逃避行⑯

「っ……それ、誤解だから!!」 ガクは間髪を容れず、駿に言った。 駿に言うと見せかけ、イオリに対する弁明だった。 「あれは——カテキョしてる時に翼さんが、ゲーセンにある推しのぬいぐるみをゲットできたら、勉強のモチベーションが上がるって言って…… でも自分では取れないって言うから、俺が取ってあげて……。 それにカラオケも、翼さんが行きたがっていたから断りきれなくて……」 「いや、そんなガチで弁明しなくても」 必死に言い訳をするガクに、駿がけらけらと笑いながら言った。 「まあ付き合ってなくてもデートくらいするよな。 先輩の俺が言うのも何だけど、翼ちゃん可愛いし」 「いや!だからあれはデートじゃないって!!」 「二人でゲーセン行ってカラオケ行くのが?」 「〜〜〜っ!!」 ガクが言い訳すればするほど、駿が面白がっているのがわかる。 嫌がらせではなく、純粋に『本当に翼と付き合ってないのか?付き合う予定はないのか?』を知りたがっている様子であった。 駿のこのノリは今に始まったことじゃない。 それに割の良い家庭教師のバイトを紹介してくれたことへの感謝もある。 しかしタイミングが最悪だった。 ガクはちらちらとイオリに目をやっていたが、イオリは何を考えているのかわからない表情で、遠くへ目線をやっている。 「——あ?てか」 そして駿のほうは、ようやくガクの隣にもう一人いることに気がついた。 「ガクの友達?あれ、俺会ったことあったっけか」 「あー……」 ガクはわしゃわしゃと頭を掻いた。 早いところ駿と別れて弁明の続きをしたい、と内心はそればかり考えていた。 「学部どこ?どこサーの人?」 「……違う学校の友達!!」 ガクは、イオリに問いかけようとする駿を遮り、「行こ行こ」とイオリの肩を叩いた。 「あ、ガクー。今度また白百合の子達と飲み会するけど来るー?」 「行かねー」 ガクは振り向くこともせず駿の元を歩き去った。 今はイオリの心象を気にすることで精一杯だった。 「イオリ。えーと……さっきの、クラスメイトの駿」 「……」 「ちょっと下品な下ネタとかも言ったりするけど、基本いい奴で……。 翼さん——家庭教師の仕事も紹介してくれたの、駿なんだ」 「……」 「……イオリぃ……」 ガクは無言のままスタスタ歩くイオリに困り果て、後ろから両肩に手を置いた。 「なあ。俺、イオリの機嫌損ねてるよな」 「……別に」 「いや絶対そうだろ。 あの、とにかくデートって言い方は語弊があると思うんだ。 あれはそういうのじゃなかった」 「……相手の方は楽しかったと言ったいたそうですが?」 「俺は別に楽しく——いや、ゲームしたり、歌うこと自体は楽しかったけども…… 翼さんと出掛けたことが楽しかったって訳じゃないから! 教え子の女子高生に勉強のやる気を出してもらうために必要なことだったんだよ、あれは!」 ガクが必死で言葉を並べると、イオリはぽつりと呟いた。 「……僕のことさ、ゲーセンやカラオケに誘ってくれたことないですよね。 僕と行っても盛り上がらないだろうなって思ってのことですよね」 「てかむしろ、イオリが誘いに応じてくれるイメージが無かったってのもある」 「そんなの誘ってみなければわからないじゃないですか」 「んじゃ今からゲーセン行く?」 「ゲーム興味ないです」 「ほらー!!」 ガクが半分呆れたように声を上げると、イオリは小さくため息をついた。 「はぁ……。問題は、僕がどう答えるかじゃない。 ガクが誘ってくれなかったってことです。 やっぱりガクさん、元々異性愛者ですし、女子高生と出掛けたらそりゃ楽しいって感じるのでしょうね」 イオリが言うと、ガクはぶんぶんと首を横に振った。 「イオリに気を遣わせたくないから言いたくなかったけど—— そもそも家庭教師のバイト始めたのだって、土日に時間を作ってイオリに会いに行けるようにしたかったからだし、 教え子のリクエストをなるべく呑んだのも、その家庭教師の仕事がなくなってしまったら、イオリと遊んだりご飯したりするお金を稼げなくなるからだし—— 俺の行動ってイオリが起点なんだよ。 イオリと一緒に居られる、それこそ今のような関係になりたかったから——頑張ってきたんだよ……」 最後の方は尻すぼみになってしまったが、ガクはイオリに伝えたかったことを伝え切った。 イオリのために、などと言ってはイオリに気を遣わせてしまうことは分かっている。 だからあまり話したくなかったが、ここで拗れてしまい、全くその気のない相手との関係を勘繰られることだけは避けたかった。 「俺が好きなのはイオリ。 一緒にいたいのも、一緒に出かけたいのもイオリ。 イオリに出会ってから、俺はずっとイオリのことばっかり考えてる」

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