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-ガク-星空のまち①
それからの数週間——
日中はバイト、夜はイオリと一緒にご飯を食べ、同じベッドで眠る日々を繰り返した。
ベッドで寝る時も、抱き合って眠る以上のことはしていない。
それでも、人生でこんなに満ち足りた夏休みを過ごすのは初めてじゃないかと思えるくらい、イオリと過ごす日常が心地良かった。
家族と温泉旅行に行ったり、遠方に住む従兄弟たちとお泊まり会をしたりした小学生時代の夏休み。
部活の朝練、午後からは友達と海やプールに出掛けてこんがり焼けた中学生時代の夏休み。
彼女と花火大会やイベントを楽しみつつ、受験のために猛勉強もした高校時代の夏休み。
どの夏も楽しく、思い出を沢山作り、青春を満喫したと思う。
けれど狭いアパートの一室で、何もせず、ただぼんやりとしながらイオリと過ごす。
ただそれだけの繰り返しなのに、何にも変え難い日々を送っているような、そんな満ち足りた思いで夏は過ぎていった。
そんな中、夏休みが終わりに差し掛かってきたある頃、とうとう一泊二日のバスツアーの日がやってきた。
バスに乗り込む集合地点へ二人で出向くと、他のツアー参加者たちが集まっていた。
若い男女は、カップルか夫婦だろうか。
初老の男女グループもいれば、子どもと一緒に参加している家族もいる。
女子旅と思われるグループもいたが、男二人で参加したのはガクたちだけだった。
指定された座席に座ると、すぐ隣の席にイオリが座る形でバスが出発する。
「東京出るの、祖母の告別式以来です」
イオリは窓の外を眺めながら言った。
「俺も旅行に行くの、めっちゃ久しぶり!
しかもバスツアーとか初めて参加する」
「僕もです」
「車酔いしない?酔い止め飲む?」
「大丈夫です。ガクと話していれば、バスの揺れも気にならないと思うので」
バスが高速に乗り、途中サービスエリアに立ち寄ると、ガクとイオリはトイレを済ませがてら売店の方を見に行った。
「屋台も出てるけど、なんか買う?」
「うーん……」
「てか、外あっつ!!
バスの中は寒いくらいなのに!
俺ソフトクリーム食べよっかな」
「じゃあ、僕も」
「二人でシェアする?」
ガクが提案すると、イオリはこくりと頷いた。
当たり前のように食べ物のシェアを受け入れてくれていることが、ガクは嬉しかった。
「あー、美味い」
「ん……、冷たい」
二人で分け合う間にも、日差しに溶かされたソフトクリームが地面に溢れていく。
「わ、手にかかった」
「ハンカチ貸しましょうか」
「いや、こんくらい舐めれば取れるし」
ガクが手の甲に落ちたクリームを舐めようとすると、イオリが顔をかがめ、ガクの手からクリームを舐め取った。
ぶるり、とガクの身体が震える。
イオリが抵抗感なく舐めてくれたことも、それによって伝わってきた柔らかい感触も、全部がガクを刺激する。
「——そろそろバスの出発時間ですね」
ガクとは反対に、あっさりした調子で告げるイオリにやきもきしながらも、ガクはコーンの包み紙をゴミ箱に捨て、連れ立ってバスに戻った。
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