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-ガク-星空のまち②

「阿智村の中でもさ、ゴンドラに乗って山の頂上まで行くナイトツアーが人気なんだってさ。 で、このツアーではゴンドラ乗り場まで送ってもらえるみたい」 ガクは、バスに乗り込むときに渡された旅程表を見ながら言った。 「ゴンドラ?」 「ここ、冬はスキー場みたいだよ。だから冬はスキー客を上に運ぶために動いてて、今は夏だから星空ツアー用に動いてるっぽい」 「そうなんですね。 ——頂上まで行ったら、この雲もどこかへ行くでしょうか……」 二人が今朝から気にしていたこと。 それは天気だった。 ここ数日はからっとした晴天が続いていたのに、今日に限って空には分厚い雲がかかっている。 雨が降らないだけマシだが、空の色は悪いのに暑さだけが相変わらずで、なんだか損したような気持ちになる天気だった。 それよりも、問題は夜。 雲がかかっていれば、星空がよく見えない可能性もあると案内に記されていた。 こればかりは運頼みだよね、と二人で話しているうちに日は傾きはじめ、 ゴンドラ乗り場に着くあたりでちょうど日が落ちた。 「……ここ山の麓だけど、普通に曇りだよな……」 「山の頂上が、雲より高いところにあれば可能性はありますが」 「いやー……この標高だと、望み薄だな……」 それでもゴンドラに乗り込むと、降りた先でアナウンスが聞こえてきた。 『もう間もなくライトダウンの時間です。 レジャーシートを敷いて、横になってご準備ください』 「レジャーシート、持ってきてる?」 アナウンスを聞いたイオリが訊ねると、ガクは得意げにリュックからシートを取り出した。 「当然!星空は寝ながら鑑賞するもんだと思ってたから持ってきといたわ!」 しかしシートを広げてみると、イオリから失笑が起こった。 「ちいさ……」 100円ショップで買ったレジャーシートは思いのほか小さく、大の大人二人が並んで横になるには至る所がはみ出てしまいそうなサイズ感だった。 「な、ないよりマシだろ! とりあえず頭の方はシートに乗るようにして寝っ転がろうぜ」 二人が横になると、付近に置かれた照明が眩しく、目が眩んだ。 「めっちゃ明るいな。これがもう少ししたら一斉に消えるってこと?」 「みたいですね」 その直後、丁度アナウンスが始まった。 『それでは10数えたあと、会場のすべてのライトが消え、皆様を星空の世界へお連れします。 参加者同士、手を繋ぎ合って、目を閉じてください』 「え?手繋ぐの?」 「目を閉じるんですか?」 二人はアナウンスに問いかけながらも、素直にそれに従った。 瞼を閉じた後、ゆっくりとカウントダウンが始まる。 すぐ隣にイオリの体温を感じながら、そして五本の指同士を絡ませ合いながら、静かにその時を待った。

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