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-ガク-星空のまち③

『5、4、3、2、1……』 直後、辺りが一斉に暗くなる。 目を開けたら、満点の星空。 それを見たイオリが息を呑んで、感嘆の声を漏らす—— そんな想像をしながら、ガクはそろそろと薄目を開けた。 空には、何も見えなかった。 正確には真っ暗闇の中で、分厚い雲が薄ぼんやりと浮かんでいることだけはわかる。 「……ははっ」 思わず、ガクから笑いが溢れる。 「はは……すご。これが日本一の星空かぁ〜!」 完全にヤケになった笑いだった。 「なぁイオリ、東京の空もだいたいこんなんだよな。 もしかして東京って、日本一の星空と張り合える町だった!?」 そんな風に茶化しながら、横を見ると—— イオリは眉尻を下げ、少し寂しそうな笑みを浮かべていた。 そして、ぽつりと声が漏れる。 「……こんなものですよね」 「へ?」 「……僕が満点の星空を期待したせいで、今この空にショックを受けている。 でも初めからこんなもんだ、って—— あの写真の星空が加工や編集によって過度に綺麗なものに仕上げられていたんだって思えていたら…… 僕も、笑い飛ばすことができたのかなあ……」 「イオリぃ……」 ガクは、唇を僅かに震わせているように見えるイオリを見て、繋いでいた手に力を込めた。 泣いているわけではない。 期待に胸を膨らませていた星空が、結果一つも星の見えない曇り空だった現実に打ちひしがれている表情。 まるでサンタクロースはいない、と宣告された子どものような顔をしていた。 「イオリ……落胆するのはまだ早いよ。 宿に戻ったら温泉が待ってるじゃん! 広い露天風呂で泳ぎまくろうな!」 「泳ぐのはダメじゃないですか?」 「誰もいなければアリッ!!」 明るく振る舞ってはいるが、ガクも内心ショックだった。 自分が星空を見たかったと言うより、イオリの願いを叶えてあげたかった。 イオリが満点の星空を見て、目をキラキラと輝かせる姿を見たかったのだ。 視界中を覆っている雲を憎々しげに見た後、ガクは跳ね起き、服についた草を払った。 「さー、気分改め宿へ行くぞー!」 再びツアーバスに乗り込み、泊まる宿に到着した二人。 しかしそこでも悲劇は続いた。

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