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-ガク-星空のまち④
「えっ……もう営業終了?」
ガクは宿に入ってすぐの場所にある湯処の入り口前に、露天風呂が終了したという看板が立ててあるのを目にした。
幸い、部屋にもシャワーは付いているため汗を洗い流すことはできたが、
星空を見れず、温泉にも入れずで、イオリが落ち込んでいるんじゃないかとガクは不安になった。
夜。
二組敷かれた布団の中に入ると、ガクはイオリの方を向いて言った。
「今日……。星空、残念だったなー」
「……はい……」
「あー、でも、旅館の夕飯は美味かったな!
それだけでも旅に来た価値はあるって感じ!」
「そうですね……」
イオリがあまり元気じゃないのを声の調子で感じ取ったガクは、少し身を乗り出して言った。
「——また来よう!」
「……え?」
「天気のことはもう、どうしようもないじゃん!
また来年も再来年もこのバスツアーに申し込んでさ、星空チャレンジすればいいよ!
いつかは見れる日が巡ってくるだろうから」
励ますようにガクが言うと、イオリはしばしの沈黙の後、探るように言った。
「それって……来年も再来年も、一緒にいてくれるってことですよね?」
「もちろん」
「……じゃあ、来年も……来ましょう」
イオリが消え入りそうな声で言う。
「おう!——だからもう、そんな落ち込むなって」
ガクがそう言って励まそうとすると、イオリはきょとんとした顔で返した。
「そこまで落ち込んでいるように感じました?」
「え?違うの?」
「落ち込んではいますけども」
「それだけじゃないってこと?さっきから口数少ないし、あんまり元気そうに見えなかったんだけど」
「……してて」
「——え?」
ガクが小声で放つイオリの言葉を聞き取ろうとすると、イオリはもう一度言った。
「緊張、してて……。
好きな人と旅行をすることが、初めての経験なので……」
そうか、緊張してるのか。
だとしたら……
「心配しなくても、無理に手を出そうなんて思ってないよ」
「……え?」
「俺に何かされるかも、って身構えて緊張させちゃっていたなら、何もしないから安心してって話」
きっと、俺が旅行先で一線を越えるチャンスを伺っていたというのが、雰囲気から滲み出てしまっていたんだろうな。
それがイオリのプレッシャーになっていたなら申し訳ない。
ガクが自分の心持ちを反省していると、イオリはガクの方へ顔を傾けた。
「……期待しちゃ駄目でしたか?」
「え?」
「手を出してくれること——期待して待ってたせいで、ガクのプレッシャーになってしまっていましたか……?」
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