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-ガク-逃避行の終わり③
「え……」
ガクが息を呑むと、イオリの父親はスマホの画面に映る文章を読み上げていた。
「調布市◯◯町のアパートで一人暮らし。実家は××県。
大学ではラクロス同好会に所属し、塾講師とコンビニ、家庭教師のアルバイトを掛け持ちしている。
少し前までは居酒屋でも働いていた——なるほど、随分と金が入り用な生活を送っているらしいね」
「っ、なんで……」
ガクが息を呑む。イオリも驚いたように目を見開いていた。
「伊織が複数回利用したスーパーでの支払い履歴から、このスーパーの近くで暮らしていることは把握した。
あとは探偵を複数名雇い、付近を張っていたんだよ」
「たん、てい……?」
「そして伊織が同じ人物と共に行動していたという報告書が届いた。
密かに君の写真を撮り、近隣の大学生への聞き込みやSNS情報を漁った結果、
君がガクという名の、地方から上京してきた大学生だということがわかった」
ガクは膝から崩れ落ちるようなショックを受けた。
——全部知られていた。
清澄白河を離れれば、こんなに人の多い東京のどこかで暮らしているイオリのことなんて見つかるはずないと思っていたのに。
すべてが甘かった。
この人達の財力と、そして執念を読みきれなかった——
「——ほう、君のお父さんは経営者なのか。
小さいながらも自分の会社を持ち、赤字経営を立て直そうと苦労しているようだね」
「!?」
「なるほど、それで君もアルバイトの掛け持ちで生活を立てているわけだ。
きっとご両親は、君が立派に大学を卒業して、良い勤め先に入れることを願ってやまないだろうね」
「……俺の父さんが、あんたと何の関係があるっていうんだ」
ガクが問うと、イオリの父親はスマホをしまって言った。
「会社というのは、評判が一番大事なんだ。
会社の不正、社員の着服、経営者に後ろ暗い噂が立てば、取引先や顧客を一気に失うこともザラにある。
まして君のお父さんのような、地元に根ざした小さな会社をやっているような人にとっては、悪い噂が立つというのは一番のダメージになるというもの」
「……俺は何も後ろ暗いことなんてしてない」
ガクが言うと、
「君はそう思っていても、世間はどう思うかな?」
とイオリの父親が言った。
「他所の家の息子を誘拐し、自分の家に住まわせていた。
婚約している訳でもなければ、男同士——
経営者の息子が『ゲイの誘拐犯』だという噂が、君の地元のような小さな町中で広がったら?
何のデメリットも生じないとは言えないだろうね」
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