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-ガク-5年後⑥
そう、だよな。
家族公認だから、結婚まで行き着いたのだろう。
俺と違って、この人はイオリの両親にも認められたということだ。
……俺だったらあんな両親になんて、認められたくもないけど。
ガクは心の中でそう毒付いた。
「そして私の歌をバイオリンソロで支えてくれた、夫の伊織にも感謝を」
麗華はそう言って、しなやかな動きでイオリの方に手を広げた。
イオリは麗華からマイクを受け取ると、会場に向けて一礼した。
客席から、うっとりとした溜息が漏れ聞こえてくる。
「本日は平日の夜遅い時間にも関わらず、東京芸術劇場まで足を運んでくださった皆様。
僕達音楽家は、聴いてくださる皆様に支えられて音楽を続けることが出来ます。
会場の皆様に、心からの感謝を申し上げます」
アナウンサーのように丁寧な言葉遣いで、客先に向けて頭を下げるイオリ。
その所作はとても綺麗で、ステージ慣れしているのがよく分かる。
再び麗華にマイクが戻り、麗華のトークが始まった。
「本日演奏した曲たちは、どれも私にとって思い出深い音楽ばかりです。
そんな曲たちを夫婦で演奏することができたのは、この上ない喜びです」
麗華は、今日歌い上げた楽曲それぞれの紹介を軽く済ませた後、「最後に」と言った。
「最後に——
夫のソロで、今日のコンサートを終わりにしたく思います」
すると麻希が、小声で耳打ちをしてきた。
「プログラムだと、さっきので終わりのはずなんです。
アンコールかな……?!」
「——これは歌曲で、本来であれば歌と共に演奏するのが相応しい楽曲ではあるのですが……。
夫が強い思い入れを持つこの曲を、バイオリンソロでお楽しみ頂ければと思います」
麗華はそう言うと軽くお辞儀をし、舞台の下手へと去って行った。
イオリは誰も居なくなった舞台の上で、静かにバイオリンを傾ける。
そして奏で始めた。
シューベルト作曲『アヴェ・マリア』の旋律を……
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