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-ガク-5年後⑧
ガクと麻希がホールを出ると、ロビーには少しの客がたむろしているくらいで、ほとんどの人は捌けたあとだった。
二人が会場を出ようとすると、
「あのー」
と女性の声に呼び止められた。
「失礼ですが、A-18の座席に座っていたお客様ですか?」
「A-18?」
ガクがポケットに入れていたチケットを開くと、確かにそこにはA-18という指定席番号が書かれていた。
「はい、自分ですけど」
ガクが返答すると、女性は自分をホールの受付だと名乗った。
「こちら、本日ご出演のキャスト様から預かったものでございます」
「……?」
ガクは、女性が差し出してきたメモ用紙のようなものを受け取った。
中を開くと、そこには電話番号と思しき9桁の数字が走り書きされていた。
「っ……これを渡してきたのは、男性と女性、どっちの出演者でしたか!?」
ガクが受付の女性に尋ねると、彼女は「男性ですよ」と答えた。
「とってもハンサムな、旦那様の方です」
——ガクは麻希と池袋駅の改札で別れると、電車の中でもう一度メモを開いた。
間違いない、これはきっとイオリの電話番号だ。
五年前はメッセージアプリのアカウントしか交換していなかった。
通話も、アプリ上からすることができた。
しかしそのアカウントが消えてしまってからは、イオリと連絡を取る手段がなくなっていた。
そのイオリから届けられた、イオリに繋がっていると思われる電話番号。
期待で胸が激しくざわつく。
しかし、同時に襲ってくるのは、ステージ上で麗華と笑みを交わす姿。
イオリはもう結婚している人間なのだ。
この電話に掛けてもいいのか?
もし隣に麗華さんが居る時に掛けても、イオリは本音で会話をしてくれるのだろうか。
最寄駅に到着し、電車を降りた後も、ガクは番号を見つめたままだった。
電話をかける勇気が出ない。
家に着いた後、すでに日付が変わる時刻を過ぎており、今から掛けるのは——と考えた。
しかしその翌日になっても、やはり番号を打ち込むまでで、通話開始のボタンが押せなかった。
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