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-ガク-5年後⑨
コンサートから戻ってきて、実に一週間の時が流れた。
これ以上時間が経つと、本当にもう掛ける勇気は消えてしまうだろう。
イオリがどんなつもりでこの番号を渡してきたのか、それだけでも聞かなければ、きっといつまでもモヤモヤと悩み続けることになる。
変だよな。
俺、こんなに延々と同じことを考えたり、電話をかけるかどうかでウジウジ悩むタイプじゃなかったはずなのに。
まるで中学生が初恋の相手の家に電話をかける時のような、そんな原始的な緊張感でいっぱいだ。
ガクは発信ボタンを押した。
数回コールが鳴った後、プツッとそれが途切れる音が聞こえた。
——繋がった!!
『……もしもし』
「!——もしもし。久しぶり……」
『……ガクだね?』
電話の先から、イオリの声がした。
「うん……。ガクだよ、俺……。
今って話せる……?」
『——大丈夫』
イオリの返答に、まずはほっと胸を撫で下ろすと、ガクはこう話し始めた。
「先週、コンサート観に行ったよ。
会社の後輩に誘われて、たまたまだったんだけどさ」
『僕も演奏中、気がついた』
「……そう、だよな。
受付にこの番号のメモを預けてくれたくらいだもんな」
『うん……』
「最後の曲で俺、泣き出しちゃってさ。
自覚なかったけど、周りの人たちを驚かせちゃう勢いだったっぽい」
『それも気づいたよ。一番前の席だもの。
隣の女性に介抱されてた』
「っ……あれは会社の後輩……、
あのコンサートのチケットをくれると言うから、一緒に行っただけで……
あの人とは何でもない……よ」
ガクが少し焦った口調で言うと、スマホの向こうからこんな言葉が聞こえてきた。
『相変わらずガクはモテてるね。
——でも納得。
前よりも良い男になってるな……って、ステージ上からも分かったよ』
「っ」
ガクは声を詰まらせた。
良い男になってるって、それ、俺のことを今もそういう目で見てくれてんの?
でも、期待しちゃダメだよな?
だってイオリは——
「そ——そういうイオリだって、綺麗な嫁さんもらって、夫婦揃って舞台の上が眩しかったよ」
ガクがそう言うと、しばしの間沈黙が広がった。
その沈黙に戸惑っていると、イオリがゆっくりと口を開く。
『……ガク。会って話せない?』
「!——俺は、別に構わないけど……
イオリの方はいいのか……?」
『いいよ。ガクは今も調布?』
「ああ、いや。今は就職して、職場から近い神奈川の方に引っ越したんだ。
でも都心にもすぐ出れる距離だよ」
『……東京駅とかは?』
「問題ないよ」
『じゃあ東京駅で。日にちは——』
その後、二人の都合がつく日時と、落ち合う店を決めるやり取りを交わしたガクは、イオリが電話を切った後に自分も通話終了ボタンを押した。
「……ふうぅ……ッ」
大きく息を吐き出す。
こんなに緊張したのはいつぶりだろう。
いや。
これからまた、もっと緊張する場に赴くことになる。
イオリにまた会える——
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