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-ガク-再会①

金曜日の午後8時、東京駅。 仕事を切り上げ、急いで黒壁横丁の通りへ向かうと、そこには既に人影があった。 相変わらず、派手ではないのに華やかなオーラを醸し出しており、道ゆく人たちが視線を送っているのが見える。 ガクは一直線にオーラの源まで向かうと、 「お待たせ……!」 と声をかけた。 「!……ガク」 イオリは顔を上げると、頬を緩めてみせた。 「久しぶり」 そう告げるイオリのことを、もし何も知らなかったのならば、その場で抱きしめていただろう。 五年間も待ち望んだ相手だ。 五年の間に、気持ちはどんどん募るばかりだった。 けれど、それを理性で抑え込む。 必死で平常心を装いながらガクも言った。 「久しぶり。——じゃあそこのエビスバーにでも入ろっか」 「うん」 「あれ。イオリって、酒は飲めたっけ?」 「飲めるよ」 「……そっか」 そういえば、二人で飲んだことってなかったな。 外で会った時もカフェやレストランで、家でも酒盛りをするようなことは一度もしなかった。 勝手に、なんかイオリは酒が飲めなさそうと思っていたけれど、そっか。 普通に飲めるんだな……。 「じゃあ——再会を祝して……で、良いかな?」 「うん。乾杯」 ビールの入ったグラスを傾け合い、心地良い音が響く。 対面に座るイオリと同時にビールを飲むと、置いたグラスの減りは自分の方がちょっとだけ多く空いた程度の差だった。 「イオリのそれ、何頼んだ?」 「レモンビール……。初夏限定のビアカクテルってメニューに書いてた」 「レモン……。なんか懐かしいな」 最初の数回は、いつもレモンティーを飲んでいたイオリ。 レモンと紅茶に含まれる成分がコミュニケーションを活発に取れるようにしてくれるとかで、好みとは関係なく選んでいたフレーバー。 「ガクのは?」 「これ?普通のビール。 混じり気のないエビスビールだよ」 ガクはそう言いながら、もう一口ビールを含んだ。 「飲み会でも大体、ノーマルなビールを頼んでる」 「飲み会……って、会社の?」 「そうだよ。◯◯ってとこで働いてる」 「僕でも知っているような大きい会社だよね。 そっか——ガク、就職できて良かった……」 その言葉から、五年前、イオリの父親がガクを脅したことを思い返された。 まだ気にかけてくれていたのか、と、ガクは嬉しい反面、申し訳ない気もして複雑な気持ちにもなった。 「イオリは——バイオリニストになったんだな」 「……想像ついたでしょう?」 「……うん、そうなるだろうなとは思ってた……あの日から」 「そう。僕はあの日に、自分の将来が確定したんだっけな」 イオリは遠い過去を回想するように話す。

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