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-ガク-再会④

「ガク」 イオリは揺らいだ瞳でガクを見つめ返した。 「僕、は……多分もう、取り返しがつかないところまで人生を進んできてしまった」 「……うん」 「学生時代のようにはいかないことも沢山あると思う。 離れていた五年間は、簡単には取り戻せないと思う」 「……うん」 「だけど——」 イオリはぎゅっと唇を引き結ぶと、決意を固めたように瞼を見開いた。 「それでも、今の僕とガクで、また一緒に生きてみたい。 ガクと——五年前はできなかったことを、やってみたい」 ガクはこくりと頷いてみせた。 後戻りができない道へ踏み出そうとしている。 それでも、五年前のあの日感じた、目の前が真っ暗になるような感覚とは違う。 今度は二人一緒だ。 これからぶつかるだろう困難も、一人で立ち向かうわけじゃない。 「——また会お、イオリ」 「うん」 イオリは頷き返すと、電話番号とは別に、今の住所とメッセージアプリのアカウントを教えてくれた。 二人はそのまま東京駅で解散し、ガクは電車に乗り込んだ。 まだどこか、身体がふわふわしている。 イオリと再会できたこと。 イオリも同じ気持ちを持っていてくれたこと。 嬉しくて叫び出したくなるのと同時に、彼が人の夫であることも思い出され、手放しに喜ぶこともまた出来なかった。 家を抜け出すために承諾した結婚。 以前からの恋人に会いに行く妻。 それらを言い訳に並べたところで、自分がしようとしていることもまた不貞行為に違いない。 麗華を傷つけたり、雪宮家から莫大な慰謝料を請求される可能性だって充分にあり得る。 そんな最悪のもしもを想像してしまい、その場でイオリを抱き締めるような行動は取れなかった。 自然と自制心が働いていたことは、五年前より大人になった証拠だろうか。 それとも—— あの頃のような、衝動に突き動かされるような恋心とは、形を変えてしまったのか。 それでも心の中に封印しようとしていた気持ちが、再びざわめき出したのを確かに感じている。 イオリと一緒に夜を越したい。 イオリと一緒に朝日が見たい。 それが当たり前に叶うような関係になりたい。 理性と衝動の狭間で、ガクの心は揺れ動いていた。

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