123 / 200

-ガク-再会⑧

ガクがそう言うと、イオリはそっと眉尻を下げた。 「……ありがとう、ガク。 僕はあの頃から、ガクに頼ってばかりだね」 「むしろもっと頼られたい!」 「……ふふ」 イオリは柔らかい笑みを浮かべた。 「だからさ、イオリ。 ……もし法律上きちんと、イオリが独身に戻れたら——俺の家に来て」 「……そうだね。ガクの家でご飯を作るなら、ちゃんと後ろ暗いことのない状態で会いに行きたい」 「うん。ご飯もそうだし、……」 「?」 「いや——少なくとも今現在既婚者のイオリに言うことじゃないよな」 「言ってよ」 「……エッチなこととかも、したいし……」 ガクは、こんな明るい時間から何を言っているのだろうと自分を殴りたくなった。 しかしイオリの側にいると、そんな欲求が絶えず襲ってくるのだ。 「——僕も……」 イオリは自分の唇を無意識に撫でながら言った。 「ガクと、またキスとか……したいな」 「うん。しよ。 イオリが雪宮姓じゃなくなったら」 イオリは小さく頷いた。 それから二人は市内のカフェでお茶をして別れた。 本当は名残惜しく思ったが、イオリが離婚するまで、イオリが不利な状況となるようなことはなるべく避けたいと思った。 電車に乗って去って行くイオリを見送ると、ガクは宙を見上げて目を閉じた。 イオリがその身一つで飛び込んで来てくれたら、それ以上の幸せはない。 けれどイオリにも様々なしがらみがあることは理解できる。 昔のように、勢いで家を飛び出してくるようなことは、もう出来ないだろう。 きちんとステップを踏んでいかなければ、後ろ暗い部分が残ったまま関わることしかできなくなる。 でも——イオリに対して散々後ろ暗いことをしてきた両親に義理立てする必要があるだろうか。 あるとすれば、奥さんの家に筋を通すこと、か。 こればかりは自分が首を突っ込める領域ではないと察していたガク。 しかしガクは思いがけず、この雪宮家とも対面を果たすこととなるのだった——

ともだちにシェアしよう!