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-ガク-雪宮麗華⑦

その後も話し合いを続けたが、二人が離婚するための条件に折り合いはつかないままだった。 麗華は離婚を呑む代わりに、伊織の子を身籠りたい。 それだけが離婚届に判を押す条件だとし、イオリは無条件での離婚を望んだ。 互いに恋人がいる状態ではあるものの、望むならば慰謝料を払うとイオリが提示すると、 麗華は金には困っていないとそれを一蹴した。 むしろ、一度籍を入れたという世間体がある以上、再婚の声がかかるかも分からない。 相手を選ばなければ二度目の結婚も叶うだろうが、自分と同等の、音楽に秀でた男性を望むとなると 再婚である麗華との見合いを好んで受ける人はそう見つからないだろう、と。 しかも結婚した後も、その相手とは子作りをすることだけが目的であり、麗華は外の恋人へ会いに行くことが決まっている—— 麗華にとって、今更他の音楽家の男性との間に子どもを設けるのは困難を極めるというのが彼女の言い分だった。 いつまでも終わらない話し合いに、麗華もイオリも疲弊し、ガクも精神的に来ていたころ—— 「つーかさあ」 ふいに、彩花が口を開いた。 「ずっと聞いてて思ったんだけどさぁ……。 麗華、ちょっと欲張りすぎん?」 「……は?」 麗華が、唖然とするような声を漏らす。 「私が……欲張り……?」 「だって、金も名誉も旦那も子どもも、その他にパートナーも欲しいっていうのが麗華の言い分じゃん。 ——あたしはさ、麗華さえいてくれればそれで良いよ。 金が無くても、由緒正しい家系じゃなくても、一生独身で子どもを持たなくても。 麗華とさえ居られるなら、それだけで幸せなんだけど?」 「な……に言ってるの、彩花……」 麗華は、自分を非難してくることが信じられないと言わんばかりに目を見開いている。 「私……そんなに欲張りに見える? 家のために、恋愛対象じゃない相手と結婚して、子どもを作る決意も固めてるんだよ。 一番好きな相手とは結婚もできない、遺伝子を残してあげられない。 こんな不幸な生き方をしているのに、私が欲張りだって言うの……?」 「そじゃね?」 彩花は軽いトーンで笑った。 「麗華は生まれてこのかたお嬢だから、庶民の暮らしは到底できないと思ってるでしょ。 だからあたしが住んでる極狭アパートに越してくるなんてことはできないし、両親の期待に応えることで、この豪邸に居続けたい。 ——あとさ、麗華が好きで歌をやることは応援するけど、子どもにも必ず音楽をやらせようってマインドには賛同できかねるわ」 彩花はそう言うと、ガクの方を見た。 ギャルっぽいふさふさした睫毛とフチの大きなカラコンを付けた目が、ガクの瞳をじっととらえる。 「——あたしのカンだけどさ、ガクくんって要領は良いけど、結構苦労してきたタイプでしょ」

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