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-ガク-雪宮麗華⑧
「えっ……」
突然そう言われたガクは、驚いて固まってしまった。
「あたし人を見る目には自信あんだよね。
これでも学生時代から、音大のバカ高い学費捻出するために働きまくってきたクチだから。
ガクくんからはあたしと似たような匂いを感じるんだよね」
ガクは、どこからそんなものを嗅ぎ取ったのだろうと驚いたが、彼女の言葉は何も間違っていなかった。
勉強もスポーツも人付き合いも、要領よくこなしてきた。
しかしそのために沢山努力を積み重ねたことも事実だ。
要領良く見せるために、要領が良くなるまで努力をした結果だ。
学生時代はバイトをいくつも掛け持ちし、他のクラスメイトたちが遊んでいる間にも身を粉にして働いた。
働いて稼ぎながらも、将来のために勉強は怠らなかった。
結局、三年の時にサークルは辞め、学業とバイトに全ての時間を費やすようになった。
大学は楽しかったけれど、苦労したこと、大変だったことの方がずっと多かったと今になって思う。
「んでさ。あたしらみたいな人間って、自分と正反対のタイプに惹かれる節があるよね。
あたしで言うと、金持ちで優等生で、世の中の汚いモノには一切触れてこなかったような箱入り娘。
でも、無知なくせにプライドが高くて、自分に誇りを持ってて、自分の歌声が世界一だと信じて疑わない——
そんな麗華のマインドに、バイブスがぶち上がったってわけ。
『あたしに足りてないのってこういう要素だよな〜。分けて欲しいなー』って近づいていって、今に至る感じ」
言葉遣いのせいでなんだか拍子抜けする部分もあるが、彩花の言葉はガクに強く刺さった。
イオリと自分には、あまり似ている部分がない。
バイオリンを突き詰め、一つのことと向き合ってきたイオリ。
色々なことを満遍なくこなし、経験を重ねてきたガク。
お金には困らずとも、自由のない暮らしを強いられてきたイオリ。
お金には苦労しつつも、自分の裁量で物事を決めてきたガク。
感情表現は苦手だけれど、心を開いてからは素直に言葉や態度で示してくれるイオリ。
喜怒哀楽は表に出やすいけれど、どこか遠慮してしまい、本音すべてをぶつけることができないガク。
互いに真逆の環境、性格でありながらも、それを補い合えるのはやはり反対の性質を持つ相手であるようにも思える。
麗華と彩花のように、出会ってから今まで、ずっと交際が続いていたわけではない。
イオリについて知らないことはまだまだある。
五年前には、イオリがお酒を飲めることや、蕎麦が好きだなどというささやかな情報すらも持ち合わせていなかった。
だから、もっとイオリを知りたい。
イオリの知らない部分を一緒にいる中で見つけていきたい。
「俺——イオリが大好きです」
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