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-ガク-雪宮麗華⑪

イオリが涙を流す姿を見たガクも、視界が霞んで見え始めた。 「……ただ、一緒に居たかっただけ。 それ以外の何も、僕の人生には求めていなかった。 だけど両親は、僕から一番大事なものを奪って、僕の中の希望を潰した。 ——それからは死んだような気持ちで生きてきた。 この間の、麗華と共演したコンサートで、ガクと再会する時までは——」 「うそ……。じゃああの時が、五年ぶり……?の再会だったってこと?」 彩花の問い掛けに、ガクとイオリは同時に頷いた。 「じゃ、それまでは連絡を取ることも無かったの?」 「僕のスマホに入っていた連絡先は、すべて消されてしまったから」 「うわぁ……」 彩花は驚嘆と同情の入り混じったような声を漏らした。 「てか……それはしんどかったね。 欲求不満にならなかった? あたしと麗華なんて、会うたびにエッチしてるような五年間だったのに」 「ちょっと、彩花!?」 麗華は頬を赤らめながら彩花を睨んだ。 「うちらのことはまあいいか。 ——ガクくん、五年の間誰とも付き合わなかったの? フーゾクに抜きに行ったりもしなかったわけ?」 「誰とも付き合ってないし、お店にも行かなかったよ」 ガクは偽ることなく述べた。 「へえぇ……純愛だね〜。 こんなモテそうな感じなのに。 周囲からのアプローチを交わすのはさぞ大変だったでしょ。 てか、もしイオリくんと再会できなかったら、一生独身を貫いたってこと?」 するとガクは、「うーん」と首を捻った。 「未来のことは、絶対そうなるとは断言できないけど。 でも前世の俺も、イオリのことを思いながら死んでいったことを考えると、元々そういう気質ではあるのかもしれない。 自分で言うのも恥ずかしいけれど、結構一途なんだと思う」 ガクはそう答えると、麗華と向き直って言った。 「自分の昔話ばかりを延々と語ってしまってごめん。 ——良かったら、麗華さんと彩花さんの馴れ初めも教えてほしい」 「私達の……?」 麗華は虚をつかれたような表情を浮かべたが、やがて立ち上がると、ハーブティーのお代わりを入れると言ってカップを回収しようとした。 「僕が淹れるよ」 イオリはそう言うと、麗華に代わってカップを集め、席を立った。 イオリが部屋を出た後、麗華はこう言った。 「——伊織は穏やかで優しくて、理想的なパートナーだと思う。 家柄がどうとか関係なく、もし私が異性愛者だったなら、惹かれることもあったんじゃないかって……思う」 「俺も、イオリの優しさに沢山救われたと思ってる。 ——イオリが矢面に立ってくれたお陰で、俺は家族に迷惑をかけることなく、ちゃんと大学院を卒業して、就職することができている」 ガクが言うと、麗華はこう言った。 「伊織が優しいのは、夜もそうだった。 こんなこと聞きたくないかもしれないけど、伊織は私が濡れるよう、いつも丁寧に時間をかけてくれていたの。 ——結局、私も濡れないし伊織も勃たないしで八方塞がりだったけど」 できれば、そんな話は聞きたく無かった。 夫婦なのだから行為があっても何もおかしいことはないけれど、 自分が会えなかった期間、この人とはそういう行為に及んでいたのだと想像すると、嫌でも嫉妬の念に取り憑かれてしまう。 「まあ、だから……そうね。 きっとこれから先も夫婦でい続けたとして、お互いに身体が拒絶し合うようじゃ、子どもなんていつまで経っても産まれないでしょうね」

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