134 / 200
-ガク-雪宮麗華⑪
イオリが涙を流す姿を見たガクも、視界が霞んで見え始めた。
「……ただ、一緒に居たかっただけ。
それ以外の何も、僕の人生には求めていなかった。
だけど両親は、僕から一番大事なものを奪って、僕の中の希望を潰した。
——それからは死んだような気持ちで生きてきた。
この間の、麗華と共演したコンサートで、ガクと再会する時までは——」
「うそ……。じゃああの時が、五年ぶり……?の再会だったってこと?」
彩花の問い掛けに、ガクとイオリは同時に頷いた。
「じゃ、それまでは連絡を取ることも無かったの?」
「僕のスマホに入っていた連絡先は、すべて消されてしまったから」
「うわぁ……」
彩花は驚嘆と同情の入り混じったような声を漏らした。
「てか……それはしんどかったね。
欲求不満にならなかった?
あたしと麗華なんて、会うたびにエッチしてるような五年間だったのに」
「ちょっと、彩花!?」
麗華は頬を赤らめながら彩花を睨んだ。
「うちらのことはまあいいか。
——ガクくん、五年の間誰とも付き合わなかったの?
フーゾクに抜きに行ったりもしなかったわけ?」
「誰とも付き合ってないし、お店にも行かなかったよ」
ガクは偽ることなく述べた。
「へえぇ……純愛だね〜。
こんなモテそうな感じなのに。
周囲からのアプローチを交わすのはさぞ大変だったでしょ。
てか、もしイオリくんと再会できなかったら、一生独身を貫いたってこと?」
するとガクは、「うーん」と首を捻った。
「未来のことは、絶対そうなるとは断言できないけど。
でも前世の俺も、イオリのことを思いながら死んでいったことを考えると、元々そういう気質ではあるのかもしれない。
自分で言うのも恥ずかしいけれど、結構一途なんだと思う」
ガクはそう答えると、麗華と向き直って言った。
「自分の昔話ばかりを延々と語ってしまってごめん。
——良かったら、麗華さんと彩花さんの馴れ初めも教えてほしい」
「私達の……?」
麗華は虚をつかれたような表情を浮かべたが、やがて立ち上がると、ハーブティーのお代わりを入れると言ってカップを回収しようとした。
「僕が淹れるよ」
イオリはそう言うと、麗華に代わってカップを集め、席を立った。
イオリが部屋を出た後、麗華はこう言った。
「——伊織は穏やかで優しくて、理想的なパートナーだと思う。
家柄がどうとか関係なく、もし私が異性愛者だったなら、惹かれることもあったんじゃないかって……思う」
「俺も、イオリの優しさに沢山救われたと思ってる。
——イオリが矢面に立ってくれたお陰で、俺は家族に迷惑をかけることなく、ちゃんと大学院を卒業して、就職することができている」
ガクが言うと、麗華はこう言った。
「伊織が優しいのは、夜もそうだった。
こんなこと聞きたくないかもしれないけど、伊織は私が濡れるよう、いつも丁寧に時間をかけてくれていたの。
——結局、私も濡れないし伊織も勃たないしで八方塞がりだったけど」
できれば、そんな話は聞きたく無かった。
夫婦なのだから行為があっても何もおかしいことはないけれど、
自分が会えなかった期間、この人とはそういう行為に及んでいたのだと想像すると、嫌でも嫉妬の念に取り憑かれてしまう。
「まあ、だから……そうね。
きっとこれから先も夫婦でい続けたとして、お互いに身体が拒絶し合うようじゃ、子どもなんていつまで経っても産まれないでしょうね」
ともだちにシェアしよう!

