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-ガク-雪宮麗華⑫

「麗華さん……?」 ガクが口を開きかけた時、ハーブティーのお代わりを持ってイオリが戻ってきた。 「伊織も戻ってきたことだし、それじゃ——話そうかな」 温かいハーブティーを口に含んだ後、麗華が言った。 「それとも、彩花から話す?」 「えー、折角だから、あたしも聞きたい! 麗華の目線からの馴れ初め話!」 彩花は完全にオブザーバーのような立場で好奇心を露わにしている。 「あ、そう。——そうね、私と彩花も、初めて会ったのは大学生のとき。 国立音大で、同じ声楽科に所属するクラスメイトだった」 麗華はそれから、二人が交流を持つようになるまでを語った。 「私、産まれが『こういう』家じゃない? もちろん周りにも音楽が当たり前にある家庭で育ってきた同級生は大勢いたけれど、 私は今より幼くて傲慢だったから、『私より由緒正しい生まれの人も、私より歌が上手な人もここにはいないわね』——なんて思ってた。 そしてその心の内は、いつのまにか態度として周りにも発信しちゃっていたの」 麗華は次第にクラスでも孤立していったという。 孤高の存在として、しかしその歌声は確かなものとして頭角を表した麗華。 だがコンクールで賞を取り、メディアに取り上げられるようになっていく毎に、クラスメイト達との距離が生まれる日々。 ——ある時、麗華は学生が共用で使う練習室で稽古中、休憩をしようと水筒を開けた。 自宅で淹れてきた、お気に入りのハーブティー。 これを飲むと喉の調子が良くなり、理想的な発声ができるようになる、麗華にとってはお守りのような飲み物だった。 しかし麗華が水筒備え付けのカップにハーブティーを注いだ時だった。 「あー、バンド練で歌い過ぎて喉カラッカラ!」 そこに、軽音サークルに所属しているクラスメイト・彩花が入って来た。 ジャラジャラとつけたピアスに、伸びかけの金髪。 いつもパンク系の服装に身を包み、どこか尖った印象の人物。 自分とは一生関わることのないジャンルの人間——麗華の中では、彼女に対してそんな評価を持っていた。 その彼女が、ずんずんと自分の方に歩いてくる。 いつも皆と距離を取り、一人練習している自分の元に何か用でもあるのかと身構えていると、彩花は麗華の水筒のカップに鼻を近づけた。 「——おっ。良い匂い!雪宮さんのお茶もーらい!」 有無を言わさず、カップをひったくって仲間を飲み干す彩花。 麗華はその傍若無人さに、空いた口が塞がらなかった。 なんて失礼な人なのだろう。 ちょっと怖そうな雰囲気だけど、強く抗議しなきゃ—— 麗華が、口を開きかけた時だった。 彩花は途端に苦しみ出し、その場にお茶を吐き出した。

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