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-ガク-雪宮麗華⑬

「え……」 麗華ははじめ呆然としていたが、何かのっぴきならないことが起きたと悟り、彩花の肩を担いで医務室へ連れて行った。 幸い、その場で中身をほとんど吐き出していたため健康被害は無かったが、彩花はその日から一週間以上に渡って声が出せなくなってしまった。 「——もしかしたら、ハーブティーの中にアレルギー物質が入っていたのかも。 私の飲み物のせいで……ごめんなさい」 麗華は責任を感じて彩花を見舞った。 すると彩花はにかっと笑い、掠れ声でこう言った。 「いーって、いーって! 人の飲み物勝手に飲もうとしたあたしがバチ当たっただけだから!」 彩花はその後、「あーでも」と続けた。 「あの後、残ったハーブティーは飲んでないよね?」 「え?……よく分からないけど、怖くなって……残りには手をつけずに水場に流したけど……?」 「そ。んじゃ今度から、水筒は練習室に置きっぱなしにしないほうがいいよ」 「?……もしかして、気温で中のものが悪くなっていたのかな……。 でもお砂糖は入れてないし、保温ビンなのに気温で劣化するなんてこと、あるかな……」 「とりま差し入れセンキュ!」 彩花は、麗華が持参したフルーツを口に頬張りながら、ひらひらと手を振った。 それから数日後に分かったのは、あの日麗華の水筒には接着剤が混入されていたということ。 それが明らかになったのは、接着剤を混入したのは自分たちだと名乗るクラスメイトの女子グループが、自ら麗華のもとへ謝りに来たからだった。 彼女たちの謝罪の中で麗華が知ったのは、女子グループが麗華をうとましく思い、嫌がらせのつもりで放置されていた水筒に接着剤を入れたことと、 それを彩花に目撃されていたということだった。 つまり彩花は、麗華の水筒に混入物が入れられたことを知っていながら、麗華から水筒をもぎとり、中身を飲んでみせたのだった。 麗華が動揺する間も、女子グループたちの話は続いた。 彩花は、麗華の飲み物にいたずらした彼女たちを強く非難し、このことを学校に報告すると告げたらしい。 最悪退学になることを恐れた彼女たちは、彩花にどうにか黙っていてほしいと頼み込んだところ、麗華に誠心誠意謝るようにと言い放った。 こうして彼女たちの悪事は麗華本人の知るところとなったのであった。 話を聞き終えた時、麗華は女子グループへの怒りよりも、麗華への戸惑いの方が大きかった。 接着剤を混入していたのを目撃したのであれば、それを自分に報告するだけで良かったはず。 わざわざリスクを負ってまで飲んでくれたのはどうしてなのか。 後日、すっかり元通りの声となった彩花の元へ行き、麗華は説明を求めた。 すると彩花はこう言った。 「え〜だってさ、飲み物に接着剤なんてベタなイタズラ、話したところでアンタが信じるかどうか分からなかったし。 それに遠目だったから、何を入れてるかまでは確証が持てなくて、その場であの子達を詰めることもできなかったんだよね。 それでアンタに水筒の中身が危ないってことを伝えるのと、あとお詫びも兼ねて飲んでみせたわけ〜」 ニッと満面の笑みを浮かべる彩花。 奇抜な見た目と近寄り難いオーラから、勝手に怖い人なのかと想像していたが、 彩花が見せた笑顔はあまりにも眩しく—— 「——以来、彩花は私の中で『ヒーロー』になったの」 麗華は昔を懐古しながら、再びハーブティーに口をつけた。

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