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-ガク-雪宮麗華⑭

「それからは友達として仲良くするようになって…… クラスから浮いていた私を、いつも輪の中に引き入れてくれたのは彩花だった。 彩花は誰とでも腹を割って話せる——というか話に割って入っていける大胆さと図太さを持ってて、それも私とは対照的だった。 でも、性格は全然違うのに、喧嘩することもなく常に一緒に行動して—— 彩花が本格的にバンドの道へ進むからと言って大学を中退した頃には、私はクラスに自然に溶け込めるようになっていた」 「あ、ほんとは金が底を尽きたから大学辞めたんだけどね。 夢を見つけてドロップアウトしたってことにしてんの」 彩花は、にしし、とガクたちに笑ってみせた。 「それで、その頃の私は孤独ではなくなっていたけれど、待っていたのは退屈な日々だった。 彩花がいないと張り合いが出ないというか。 彩花が見ていてくれるから、歌の練習にも気合いが入っていたんだな、って気付いて。 そこで初めて、私が彩花に抱いている感情って、友情とは違うものだったのかもって自覚したの」 麗華が言うと、彩花はにやにやと笑みを浮かべたまま「続けて?」と振った。 「もう、急かさないでよ……。 それで——大学を辞めた彩花に、理由をつけては会いに行くようになった。 自分の中で、他の友達に向ける気持ちと、彩花への思いが全く別物だって確信した時、私は思い切って彩花に告白したのね。 勇気を出して、『私と付き合ってください』って。そしたら——」 「はーい、ここでシンキングターイム!」 彩花が麗華の言葉を遮った。 「あたしはその時、麗華になんて返事をしたでしょーか!?ヒントは一言です!」 「OKしたのかな?だから返信は『いいよ』?」 ガクが言うと、 「『私も好き』……とか?」 とイオリも答えた。 「はい、ブー。正解は『マ?』でした〜。 一言、って言ったじゃん」 彩花の解答に、「一文字じゃん」とガクは思わず突っ込んだ。 「いや、麗華にそんな風に思われてたなんて自覚なくて、マジか、って言っちゃったんだよね。 そしたら麗華、震えて泣き出しちゃってさ〜もう大変だったんだから〜」 「そ、それは今言わなくても良いでしょ!?」 彩花が笑うと、麗華は顔を真っ赤にして俯いた。 「とにかくあたし、それまでは女の子と付き合ったことなんて無かったわけよ。 ——んでも、男と付き合ってもそんなにピンと来なくて。 麗華のことは嫌いじゃ無かったし、とりま付き合ってみるかーって思って『んじゃ付き合お』って答えたの。 したらさあ、麗華、今度は『返事が軽すぎる』って泣き出して〜〜」 彩花は、耳を赤らめて俯いている麗華を見つめて言った。 「……まあ、そういう真面目なとこが、可愛いーって思ったんだよね。 適当人間のあたしと違って、ちっさい頃から『自分は歌手になるために生まれて来た』って言って愚直に声楽家としての正道を歩み続けてる—— そんな正反対のタイプの麗華に興味が湧いちゃって、なんか放っておかなかったんだよね」 ガクは苦笑いを浮かべながらも、 「なんかちょっとわかる」と同意してみせた。 「自分と似てないから、次にどんな反応が戻ってくるんだろうってドキドキするし、気付いたら頭の中がいっぱいになってるよね」 「ガクの恋愛って、今までそうだったんだ」 イオリがむすっとした顔で言うと、 「イオリのことだよ」 とガクは言い、イオリの頭をそっと撫でた。 ——瞬間、慌てて手を引っ込める。 「っ、ごめん……。 これも不貞行為になる……よな」 ガクが咄嗟に謝ると、いつのまにか顔をあげ、それを眺めていた麗華が言った。 「——思い出した。 私が彩花を好きになった時の気持ち。 誰に何と言われても止められない——自分の中で抑えきれないほど大きくなっていった気持ち。 ……あんなにかけがえのない思いは、今後の生涯で二度と味わうことはないんだろうな、って」

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