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-ガク-2月のセレナーデ③
オーケストラのメンバーが次々にステージに上がっていく。
最後に指揮者が登壇し、メンバーの注目を集めさせ、そして指揮棒を振った。
温かく優しい音楽が会場を包む。
あ……これ、聴いたことあるな。
小さい頃にやっていたドラマのエンディング曲だった気がする。
お。昔人気だった歌手の一番のヒット曲じゃん!
——これも如月奏の作曲だったんだな、知らなかった。
これは確か、ハリウッド映画の劇中曲……
米アカデミー賞の何かの部門で日本人が受賞したってニュースでやっていたの、もしかして如月奏のことだったのかな?
音楽部門とかもあったよな。
演奏を聴いていると、すべての音楽がどこかで聴いたことのある懐かしい旋律ばかりだった。
ガクは初めは知っている楽曲にテンションが上がったり、オペラグラスで一人一人の演奏者を眺めてみたりしていたが、次第に音楽そのものの心地良さに呑まれていった。
イオリのバイオリンは圧倒的で、心を鷲掴みにされるような衝撃を受けたけれど——
このコンサートも、奏でられる音の一つ一つが心地良くて、身体に染み込んでくるような気持ちよさがある。
気がつくと前半のプログラムが終わり、20分間の休憩時間になっていた。
すると自分とは反対側の、イオリの隣の席から啜り泣くような声が聞こえて来た。
「うっ……うぅ……そーちゃん……」
女性が何かを呟きながら涙を流し続けていたため、イオリも困ったようにちらちらと女性の方を見ていた。
歳は一回りくらい上に見えるが、華やかなワンピースを着た、綺麗な女性だった。
座席が一番端なのから察するに、連れはいないようだ。
そのままそっとしておくべきかとも考えたが、ガクはつい、女性に声をかけてしまった。
「——あの。大丈夫……ですか?」
すると女性は、ハッとしたように顔を上げ、真っ赤な瞳でガク達の方を見た。
「あ……。ごめんなさいね、心配かけちゃったみたいで」
「いえ……。どこかご気分が悪い訳ではないですか?」
「大丈夫、どこも悪くないから——あああん!!」
そう言いながら、再び声を上げて泣き出してしまった女性。
ガクとイオリは顔を見合わせ、躊躇いの表情を浮かべていたが、女性のハンカチがぐっしょりと濡れているのを目にしたイオリが「あの、これ」と自分のハンカチを差し出した。
「ありがとおぉ……!」
女性はハンカチを受け取り、布地に瞼を押し当てた。
——暫くして、少し落ち着いて来たらしく、女性は先程より落ち着いた声で言った。
「ごめんねぇ……。隣でこんなにわんわん泣かれたら、後半の演奏を楽しめないわよね。
もう泣き止んだから、安心して……」
「俺たちのことは気にしないでください。
もし良かったら——吐き出して気持ちが楽になるようなことであればですけど——何があったのか話してみてください」
女性を放っておかなかったガクが言うと、女性はマスカラの落ちた頬を擦りながら口を開いた。
「私ね……そーちゃん——如月奏のマネージャーなの」
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