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-ガク-2月のセレナーデ⑤

「そうだったんだ……」 イオリが愕然としたように呟く。 「じゃあ、『2月のセレナーデ』は元々、如月さんが作りたくて作った曲だったんですね」 「そうよ」 イオリの言葉に早苗が頷く。 「これね……そーちゃんが初めて『愛』をテーマに作った曲なの。 取引先や事務所からの要望ではなく、そーちゃんが自主的に、好きな人——皐月くんのことを想って作り上げたのが、この『2月のセレナーデ』」 初めて知る情報の数々に、目から鱗が落ちるガクとイオリ。 特に如月奏を一番好きな作曲家として尊敬するイオリにとっては、早苗の話すエピソードはとても興味深い様子であった。 それから間も無く、後半が始まった。 旋律が流れ始めると、再び涙ぐむ早苗。 よほど大事な人だったんだな、如月奏。 死んだ後もこうして泣いてくれる人がいて、沢山の人が彼の音楽を聴きに集まって。 親兄弟、妻子がいなくても、如月奏という作曲家は孤独では無かったのだとガクは理解した。 そんな如月奏が、おそらく唯一愛した男性というのがどんな人なのか気になるけれども、 遠いところへ行ってしまったということは、きっとこれからも俺が知ることはできないのだろう。 コンサートのフィナーレで『2月のセレナーデ』の演奏が始まると、周囲の観客が息を呑んで音に耳を傾けるのを空気で体感したガク。 元々はピアノソロで書き上げられた楽曲がオーケストラ仕様にアレンジされ、冒頭のパートをコンサートミストレスの女性が奏でているのを、イオリはじっと見つめていた。 イオリにこんな真剣な表情で見つめられているコンサートミストレスが、ちょっと妬ましく感じてしまうくらいだった。 ——すべてのプログラムが終了すると、早苗はハンカチを握りしめたままイオリに声を掛けた。 「ハンカチ、ありがとね。 ごめんね、マスカラとか付けて汚しちゃったみたい。 洗って返すから、住所を教えてもらってもいいかしら?郵送するから」 「いえ、気にしないでください。 ハンカチは汚れるのが前提の存在ですから」 「それじゃ私の気が済まないわ! 借りっぱなしの恩は作らないのが信条なの」 「それじゃあ……プログラム、貸してもらえますか」 イオリが早苗の持っていたプログラムの余白に自分の住所と電話番号を書き込むと、早苗はくすっと笑った。 「……なんだかあなたって、そーちゃんに似てる」 「え……」 イオリはバッとガクを見た。 「また似てるって言われた。そんなに?」 「話し方とか、醸し出す雰囲気がちょっと似てるのよね」 早苗はそう言うと、ガクの方にも視線を向けた。 「そちらのあなたは——皐月くんに雰囲気が似てるわ」

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