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-ガク-旧友の結婚①
「駿!結婚おめでと〜!!」
——表参道のパーティー会場で、一斉にグラスを合わせる音が響く。
「いやー、駿もついに年貢の納め時か〜」
「てっきり大学時代の彼女とゴールインまでいくかと思ったけどな」
ガクが座っている『大学時代のご友人グループ』テーブルでは、向かいの席で悠真と翔太が会話をしていた。
この日ガクは電通大時代の友人・駿の結婚披露宴に呼ばれていた。
会場の前方では、大きなスクリーンの前に新郎新婦が座っており、中央には新郎側・新婦側、さらに高校・大学・会社などコミュニティごとに分かれた丸テーブルが配置されている。
式は午前中に親族だけで執り行われたそうで、ガクたち大学時代の友人は二次会のパーティーから参加していた。
「でもさー、奥さんのタイプ、ちょっと意外だったかも」
「駿にしては堅実そうな子選んだよな。
大学の彼女と違って、あんま派手な感じしないし」
「さっき別テーブルからちらっと聞こえてきた話じゃ、『できちゃった』から籍を入れたみたいよ?」
「あー、そゆことね。
んじゃ奥さんの方がわざと避妊しなかった可能性あるよな」
「なんで?」
「だってそんなに可愛くねえじゃん、顔。
駿を逃したら次のチャンスはないと焦って、避妊が失敗するように細工したとか」
「あはは!確かに駿の趣味じゃなさそーだもんな、ああいう地味な感じの子」
シャンパンを飲み干した酔いも手伝ってか、下衆な会話で盛り上がる悠真と翔太。
ガクは途中まで適当な相槌を打っていたが、二人の声が他のテーブルまで聞こえるレベルまで大きくなってきた頃——
「晴れの日を台無しにするような会話、いい加減自粛しなよ」
ガクはそろそろ二人を説教しなければ、と口を開いた。
「おおん?ガク〜、なにピリついてんの?
駿に先越されたから苛立ってんの?」
「悠真と翔太の会話に苛立ってんだよ。
周り見てみろよ、みんな不快そうな顔してるだろ」
ガクは二人に、周囲にも目を向けるよう促したが、彼らは「なにマジになってんだよと」面白がるばかりだった。
ガクはシャンパンを含むと、深く項垂れた。
——こういう奴らなのは前からだろ。
チャランポランで適当で、でも要領が良いから勉強はできて教授や女の子にはウケが良くて。
大学の頃はその適当さが一緒にいて楽だったし、彼らのお陰でコミュニティの幅を広げられた感謝もある。
下ネタだって、俺も面白がって参加することはあった。
けど、さすがにこれはダメだろ。
結婚式という人生で一番の晴れの日に、それを台無しにするような——特に新婦を傷つけるようなこと、口に出すなよ。
心の中でどう思おうが勝手だけど、もう少し大人になれよ。
ガクは苛立ちを抑えるため、もう一口シャンパンを含む。
「つーかガク〜、俺らもう26になる歳じゃん?
結婚は未だの奴多いけどさ、彼女の一人くらい居るもんじゃん。
お前まだ独り身続行中なわけ?」
「独り身だったら何だよ」
ガクが思わず感情的になると、
「キレんなって〜!」
と二人はケタケタ笑い飛ばした。
その時だった。
「悠真先輩、翔太先輩。
シャンパン飲み過ぎじゃないですか?
ジュース貰ってきたんで、こっちで乾杯しましょー」
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