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-ガク-旧友の結婚②
コツン、と小気味良い音を鳴らしながら、二人の前にジュースのグラスを置く女性。
「翼さん……」
ガクは、華やかなパーティードレスを見に纏った女性——月島翼を見上げた。
「翼ちゃん!久しぶりに会うけど、相変わらず可愛いね〜」
「そういえば駿とは高校でも大学でも、ラクロス繋がりの後輩だもんな!
今ってまだ院生なんだっけ?」
悠真と翔太は鼻の下を伸ばしながら、翼と共にジュースを流し込んだ。
「はい。先輩方の二つ下なので」
翼がニコッと微笑むと、悠真と翔太はますますデレっとした顔で彼女を質問攻めにした。
「卒業後の進路ってもう決まった?」
「ソフトウェア系の企業にインターンシップへ行ってたんですけど、そこで内定を貰えたので、卒業後はそこで働く予定です」
「彼氏いる?」
「先輩方にはヒミツでーす」
悠真と翔太は、翼に恋人がいるかどうかをどうにか確かめようと、その後も質問をぶつけていたが、翼はのらりくらりと交わし続けた。
やがて悠真と翔太が連れ立ってタバコを吸いに喫煙所へ出ると、テーブルに残った翼がガクのグラスに自分のグラスを重ねた。
「翼さん、ありがとう。
あのままいってたら、俺二人と揉めてたかも」
「ガク先生が怒るのも当然ですよ!
私も聞いてて腹が立ちましたもん!
でも場の空気を壊すのも躊躇われたので、二人には酔いを覚ませるものをと思ってジュースを差し入れました」
翼がにっこり微笑むと、ガクは眉尻を下げた。
「さすがに『先生』って呼び方はもういいでしょ。
先生と生徒だった時代より、大学の先輩後輩だった時間のほうが長いんだし」
「え〜?それを言うなら、『翼さん』呼びも家庭教師時代の名残じゃないですか!」
「はは、確かに」
二人は笑いながら、大学時代の思い出話に花を咲かせた。
「——でも本当、私が電通大に入れたのもガク先生の指導のお陰ですね。
うちのママったら、私が課題や論文で煮詰まってると、未だに『ガク先生に教えてもらいなさいよ』って言ってくるんですよ」
翼はそう言って、パーティー用の小さなバッグから手のひらサイズのぬいぐるみを取り出した。
「覚えてますか?先生がゲーセンで取ってくれた……」
「ああ、『ヒロトくん』ね。『ヒロト』って言ったら『くん』までが名前です、って翼さんから訂正が入ったやつ」
「ふふっ。それです。私、ヒロトくんの推し活はもう卒業したんですけど——
何かを頑張りたいときは、未だにお守り代わりにしてるんです。
普段は机に飾ってるんですけど、今日はガク先生が来るって聞いてたから、会話のタネに持ってきてみました」
翼は手のひらに『ヒロトくんのぬい』を乗せ、懐かしそうに目を細めている。
「……でも先生。一緒にお出かけしてくれたのはあの一回きりでしたよね。
大学に入った後も、二人で会ったのは学食とかお茶したくらいで……
ラクロスサークルも、私が入った直後にガク先生は辞めちゃったし」
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