150 / 200
-ガク-両親①
「父さん、母さん。
僕、麗華と離婚することを話し合いました」
——駿の結婚式から一週間後。
ガクは、イオリと連れ立ってイオリの実家を訪れていた。
麗華が事前にイオリの両親に『伊織からとても大事な話があるので、時間をください』と連絡を入れていたこともあり、両親は二人とも仕事を入れずにイオリを待っていた。
清澄白河に降り立つのは久しぶりだった。
正確には、イオリと引き離されてからの五年間、初めは何度もイオリの家の前まで通っていたが、イオリと対面が叶うことは無かった。
社会人になってからの一年半は、仕事が忙しかったこともあり、そしてもう望みは薄いだろうと半ば諦めていた気持ちもあり、ここへ来ることはしなくなっていた。
辛かった頃の思い出が甦り、ガクは少し胸が苦しくなったが、あの頃と今は違う。
今は隣にイオリが立っている。
一緒に、同じ目的のために、あの家へ向かっている——
そうしてイオリと共に玄関のベルを鳴らすと、イオリの母親がドアを開けた。
ガクの姿を見て、思い切り嫌な表情をされたことから、やはり最悪な出だしであることは覚悟しつつ、ガクはイオリと共にリビングへ通された。
「麗華との話し合いはもう済んでいて、お互いに離婚については前向きに考えています。
ただ、何の報告も無しに雪宮家の籍を抜けることは不義理だとも考え——
離婚届の証人の欄に、父さんと母さんからの印を貰いたいんです」
イオリがそう切り出した。
ガクがちらりと横目で見ると、イオリのこめかみから汗が滴り落ちていた。
その一方で、顔は青ざめ、酷く緊張しているのが上擦った声からも伺える。
しかしここに来る前、イオリが『まずは自分から話したい』という言葉を受けていたため、ガクは黙ったまま彼を見守った。
イオリが話した後、長い沈黙が訪れる。
俺も一応、改めて自己紹介すべきか?
もう名前から地元まで探偵に調べられてるから筒抜けだろうけど。
「あの」
ガクが口を開き掛けた時、黙っていた母親が口を開いた。
「……パパもママも、イオリのことをこんなに大切に育ててきたのに……。
その結果が、半年で良家のお嬢さんとの離婚?
——呆れを通り越して、酷く落胆しているわ」
ともだちにシェアしよう!

