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-ガク-両親②
大切に育ててきたなら、なんで息子の腹はあんな痣だらけなんだよ。
ガクはそう言い返したくなるのを必死に押し留めた。
今日は感情的になったら終わりだと思っている。
少なくとも五年前のあの日のように、人目も憚らず叫んだりするようなことはしない。
「麗華さん、あんなに良いお嬢さんじゃない。
何があったら離婚だなんて究極的な結論を出せるのかしら」
イオリの母親は、そう言いながらじろりとガクを見た。
お前が原因なんだろう、と言いたげな瞳で。
「麗華とは、互いに大事にしたいものがあることで考えが一致しました。
これからは自分の一番大事なものを、大事にできるように、それぞれの道を歩もうという話し合いをしたんです」
「——離婚の話を切り出したのは、お前からなのか?」
父親が口を開く。重々しい声だった。
「はい」
イオリが頷くと、父親は深く息を吐き出し、ソファの背もたれに身体を預けた。
「話にならないな」
「それでも、話をさせてください」
イオリが深々と頭を下げると、母親は小さく舌打ちをして、ガクを顎でさした。
「——どうせ、そこの人が原因なんでしょ」
う……来た。
ガクは生唾を飲み込み、背筋を伸ばした。
「イオリのお父さん、お母さん、ご無沙汰しております。
——五年前は失礼な態度をとってしまったこと、自分の幼さを反省しています。
今日はお時間をいただき、お宅にも上がらせて頂きましてありがとうございます」
そう言ってガクが深々と頭を下げると、父親がフンと鼻息を鳴らした。
「五年前のことなど、ほとんど忘れてしまったよ。
イオリを誘拐した性悪な大学生がいたことならば覚えているが、顔も名前も記憶に残っちゃいない」
「お言葉ですが、父さん」
イオリが口を開いた。
「顔を覚えていないのならば、今日ガクと初めて顔を合わせた時、酷く表情を歪ませていたのはなぜですか」
すると父親はイオリの方をじっと見た。
息子を品定めしているかのような、嫌な視線だった。
「なるほど。家を出て、自分で金を稼ぐようになったことで、私達に強気に出れるようになったみたいだな」
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