151 / 200

-ガク-両親②

大切に育ててきたなら、なんで息子の腹はあんな痣だらけなんだよ。 ガクはそう言い返したくなるのを必死に押し留めた。 今日は感情的になったら終わりだと思っている。 少なくとも五年前のあの日のように、人目も憚らず叫んだりするようなことはしない。 「麗華さん、あんなに良いお嬢さんじゃない。 何があったら離婚だなんて究極的な結論を出せるのかしら」 イオリの母親は、そう言いながらじろりとガクを見た。 お前が原因なんだろう、と言いたげな瞳で。 「麗華とは、互いに大事にしたいものがあることで考えが一致しました。 これからは自分の一番大事なものを、大事にできるように、それぞれの道を歩もうという話し合いをしたんです」 「——離婚の話を切り出したのは、お前からなのか?」 父親が口を開く。重々しい声だった。 「はい」 イオリが頷くと、父親は深く息を吐き出し、ソファの背もたれに身体を預けた。 「話にならないな」 「それでも、話をさせてください」 イオリが深々と頭を下げると、母親は小さく舌打ちをして、ガクを顎でさした。 「——どうせ、そこの人が原因なんでしょ」 う……来た。 ガクは生唾を飲み込み、背筋を伸ばした。 「イオリのお父さん、お母さん、ご無沙汰しております。 ——五年前は失礼な態度をとってしまったこと、自分の幼さを反省しています。 今日はお時間をいただき、お宅にも上がらせて頂きましてありがとうございます」 そう言ってガクが深々と頭を下げると、父親がフンと鼻息を鳴らした。 「五年前のことなど、ほとんど忘れてしまったよ。 イオリを誘拐した性悪な大学生がいたことならば覚えているが、顔も名前も記憶に残っちゃいない」 「お言葉ですが、父さん」 イオリが口を開いた。 「顔を覚えていないのならば、今日ガクと初めて顔を合わせた時、酷く表情を歪ませていたのはなぜですか」 すると父親はイオリの方をじっと見た。 息子を品定めしているかのような、嫌な視線だった。 「なるほど。家を出て、自分で金を稼ぐようになったことで、私達に強気に出れるようになったみたいだな」

ともだちにシェアしよう!