153 / 200

-ガク-両親④

ガクは、麗華が結婚当初から彩花と不倫関係にあったことも口添えた方が良いのでは?と思ったが、イオリは麗華側の事情を出すことはなかった。 麗華を気遣ってのことなのだろうと思い、ガクはイオリにどこまでを話すかの判断を委ねることにした。 しかし、それはそれとして。 自分の気持ちや考えは、自分の口から伝えなければとガクが切り出す。 「俺はイオリのことを、ずっと昔から慕い続けてきました。 麗華さんを巻き込んでしまうことは本当に忍びない気持ちでいっぱいですが、 それでも僕はイオリを諦めることができません」 ガクは深々と頭を下げた。 「お願いします。どうかイオリを僕にください」 「……まさかあなた、男同士じゃ結婚できないってことを知らない訳ないわよね?」 母親が嘲るような笑いを浮かべた。 「イオリをどうするかは、親である私達が持つ権利よ。 あなたが強請ったところで、あなたにイオリはあげないわ」 「イオリをどうするかは、イオリがどうしたいかで決まるものではないのですか?」 ガクは感情を昂らせないよう堪えつつ切り返した。 「俺でも、あなた方でもなく。 イオリの人生は、イオリがどうしたいかで決まるものではないでしょうか。 ——俺はそれがあって然るべき、普通のことだと思っています」 「あって然るべき?普通のこと?」 父親はガクの言葉を繰り返した。 「それは君が生まれ育った家や学校、環境の中での『普通』だろう。 我が家では、そして我が家が属する界隈での常識はそれとは違う。 子は親の意思を継ぐ存在であり、親の決めた人生を歩むことで幸福になれる。 自分の道を探したい、自分で決めたいなどと言う凡夫は、家族に道を提示してもらえなかったに過ぎない」 「……っ」 ガクは拳を震わせ、奥歯を噛んだ。 が、抑えていた感情の欠片が滲み出てしまう。 「親が決めた通りの人生を歩めば幸福になれる—— それはその親が愛情を持って子に接した上でのことならば、それも一理あるかもしれません。 ですが……俺はあなた方が、その愛情を持ち合わせていたのかを疑ってしまいます。 子を愛す親が、子に消えない傷痕なんて作るのでしょうか……?」 すると父親と母親は、まるで面食らったように顔を見合わせた。 俺がお腹の傷のことを知っているのが予想外だったのだろうか? ガクはそう考えたが、そうではなかった。 「何を言っている? 子の躾で体罰を行うのは、立派な愛情表現の一つではないか」

ともだちにシェアしよう!