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-ガク-両親⑤
「は……?」
思わずガクから声が漏れる。
体罰が——愛情表現?
「君は一度でもご両親から叩かれた経験はないのかな?」
「……っそれは……あります。
でもそれは、俺がイタズラをした時や、親に向かって酷いことを言ってしまった時——
俺に原因があってのことです」
「それと、我が家の躾との差は何だと言うのだ?」
「イオリは何も悪いことをしていない……!
それが一番の差ではないですか……?!」
ガクが訴えると、母親はソファから立ち上がり、本棚からノートのようなものを持ってきた。
ガクがそれを凝視すると、表紙には『伊織の躾記録』と書いてあるように見えた。
「◯年、6月25日、伊織10歳。
まだ6月なのに贅沢にも自室のクーラーをつけ、挙句クーラーを付けっぱなしにしてバイオリンのレッスンに参加。
電気代の高さと節約の意識を持ってもらうために躾をした。
追加:これより一週間後の現時点では、再犯していない様子。躾の成果が出ていると判断」
「……?」
ガクが眉根を寄せ、黙って耳を傾けていると、母親はノートのページをめくってみせた。
「6月27日。
伊織が友達の家に遊びに行きたいと言った。素行調査の結果、その子の父親は政治活動に熱心であることが判明。
幼いうちから偏った政治思想を植え付けられてはいけないため、遊びに行くことを反対。
伊織が泣き出したため、躾を行った」
「な……ん……」
ガクが言葉を失う。
この人は、イオリへ体罰を行った記録を全部付けているのか……?!
「6月28日。
伊織がクラスの女の子からラブレターをもらって帰ってきた。
自室の机に隠していたのを掃除の時に発見。
隠していたということはやましいことがある証拠。
伊織を問い詰めると、その子と公園で遊んだり、漫画を貸してもらったことがあると発覚。
やはりやましい理由があっての隠蔽だった。
また、許可なく公園へ行くこと、教養にならない書籍を読んだことに対しての反省が足りなかったため、躾を行った」
「……っ」
イオリが顔を青ざめ、唇を震わせている。
ガクは、あまりに異常な母親の行動を前にし、それを止める声すら出てこなかった。
「7月2日。
伊織が、部屋の中で自慰行為に及んでいるのを発見——」
「!!やめ——」
イオリは口元を覆い、瞳に涙を浮かべていた。
「やめてください。読み上げないでください……っ!」
「自慰行為は30分超に渡って行われた。
その後、身体から出たものが下着についてしまい、洗濯機を回す姿を見届ける。
ピアノ教室で生徒が出入りすることもある時間帯から自室で下半身を露わにしていたのは、万が一生徒と鉢合わせる可能性を考慮できていない、とこれを叱責。
また、たった一枚の下着のために勝手に洗濯機を回したことも咎めた。
水道代がいくらかかったのかを計算させたが、答えられなかったため躾をした」
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