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-ガク-始まり①
次の月曜日——
イオリから、一通のメッセージが届いた。
画像?珍しいな……
ガクがメッセージの中身を開くと、そこにはイオリの写真が添付されていた。
イオリの横には、穏やかな表情をした雪宮麗華の姿もある。
二人は区役所を背景に、離婚届を画面の前面に打ち出すようにして写真の中に収まっていた。
それを見たガクは、思わずぷっと吹き出してしまう。
——なんだよこれ。
まるで婚姻届を出しに行くカップルみたいな写り方じゃん。
イオリも麗華も、穏やかで幸せそうな笑みを浮かべている。
イオリの自撮りを初めてもらった記念すべき写真なのに、一緒に写り込んでいるのが元妻の女性と離婚届というのは、なんとも複雑な気分にはなるが。
これで彼らの婚姻関係に終止符が打たれたのだと実感すると、ガクは唇の端をそっと上げた。
離婚祝いに、今度会ったら花束でも渡してみようかな。
そんなことを考えながら返信を打とうとしていると、続けてイオリからメッセージが届いた。
『夜、ガクの家に行ってもいいかな』
「——もう!?」
ガクはそこがオフィスであることを忘れ、思わず声を漏らした。
そうか。
離婚が成立したってことは、イオリはもう雪宮姓じゃなくなり、雪宮家に住むこともなくなるのか。
そしてイオリの実家とは絶縁宣言をしたわけで、当然イオリの住む場所はここ——俺んち、ということになる。
無事離婚が成立すればいずれ訪れる日のことだったのに、なぜ今まで『放置』していたんだろう。
「——すみません!半休いただきます!」
ガクは上司にとにかく頭を下げ、仕事を切り上げて自宅へダッシュした。
一人暮らし用の手狭な部屋に、色々なものを散らかしたまま家を出てきたことを思い出し、はやる気持ちで電車に飛び乗るガク。
離婚したら、イオリと一日でも早く会いたいと思っていた。
しかし部屋の片付けという急務が発生し、今夜イオリが来るという喜びに浸る間もなく掃除を開始した。
散らかってる物を隠して、水回りを綺麗にして、床に掃除機をかけて。
帰る途中に寄ったドラッグストアで買ってきた消臭剤を部屋中に撒いて。
棚や押し入れの中の整頓はイオリの目を盗んで少しずつやることに決めた。
ああ、イオリが今日来てくれるって前から分かっていたら、スーパーで良い肉とか買い込んでたんだけどなぁ……
ガクは冷蔵庫の準備まで手が回らなかったことを悔やみつつ、イオリに宣言していた時刻が近づいてきたため、最寄駅へ迎えに行った。
そして案の定の装いにガクは苦笑いを浮かべた。
「——今日から住まわせて」
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