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-イオリ-第二楽章⑤
「——またキャンセルされちゃった」
式から数週間後。
僕は電話を切ると、自然とため息が溢れた。
「コンサートの出演……?」
「うん。向こうからの出演依頼だったのに、あっちから『やっぱりこの話は無しで』って電話が来た」
「——やっぱり、未だ続いてるんだな。
イオリの両親からの根回し」
もう、あの二人を両親と呼ぶことすら嫌悪しているけれど——
僕はあの話し合いを経て、ようやく踏ん切りがついた。
それまでは、どんなに傷を負わされても、家族とは愛があるもの、美しいものだと心の何処かで信じていた——いや、信じたかった。
他所の家とはだいぶ違う家族像かもしれない。
それでも、父さんや母さんにも育ててもらった恩は感じていた。
バイオリンも、勉強も、生活態度までも厳しい両親だったけれど、僕が良い大人になれるように躾けてくれているんだ、と。
こんなに僕のために時間を割いてくれているのだから、僕を愛してくれている証拠なんだ、と。
だけど結局、二人は自分たちの欲を叶えるためにそれを強いていただけだった。
父さんは、自分の意思を継ぎ、バイオリニストとして世界に名を馳せるような息子になるように。
母さんは、自分の思い通りにできる、品行方正な息子になるように——
僕が何をして楽しくなれるか、幸せになれるかなんてことは一度も考えてくれたことはないだろう。
僕は二人にとって理想の息子になれるよう、精一杯の努力をしてきた。
けれど僕のたった一つの願い、ガクと一緒に居ることを二人の手によって妨害され、やっと目が覚めた。
僕は二人のために、人生の大部分を譲ってきたけれど、二人は僕の願いのために譲る気持ちは少しも持ち合わせていなかった。
僕はこれからも、二人に与え続け、搾取されるだけなのだと。
ガクと一緒に話し合いに行ったあの日、互いの欲をぶつけ合い、口論にまで発展する二人を見ていたら、僕の信じていた『家族愛』というものは、全ての家族に存在するものではなかったのだと悟った。
だから僕は、自分のことを大事にしてくれる人と家族になった。
そのことに後悔はない。
だけど……
父さんはあの日の宣言通り、僕のバイオリニストとしての活動すべてに手を回し、妨害するようになった。
それは一年経った今も変わらず続いている。
ガクは、『俺が養うから、イオリは何も心配しなくていい』と言ってくれるけれど、それは僕が嫌だ。
僕の実体験で感じたのは、家族は一方通行だと上手くいかないということ。
だから僕は家族であるガクと、与えられるだけじゃなく、与え合える関係でありたい。
与えるものは必ずしもお金である必要はない、とは思うけれど……。
小さい頃から大半の時間をバイオリンに費やし、音大まで出て、音楽以外の世の中の多くを知らないまま大人になった僕は、
バイオリン以外でお金を稼ぐ手段というものを持ち合わせていなかった。
ガクに寄りかかったままの暮らしを送りたくない。
俺もガクのためにお金を稼ぎたい。
僕はこの一年、その焦りを常に抱えた状態で暮らしてきた。
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