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-イオリ-第二楽章⑥
「いっそ、演奏者としてではなくバイオリンの講師に転向するのは?
個人で教室を開いたり、音大の非常勤とか募集ないか探してみたりさ」
ガクが励ますように言ってくれる。
だけど僕はそれに対しネガティブな返事をしてしまった。
「そっちの方がリスキーだよ。
お金を投資して教室を開いたとして、悪評を広められ、生徒が一人もいなくなったら?
大学の講師だってそうだよ。就職した後で、そこに留まれないよう根回しされたら……。
そっちの方が、何かとダメージが大きい」
僕は「それに」と言葉を続ける。
「僕は人に教えるの、得意じゃないから。
ガクと違って——」
するとガクは、くすっとした笑みを浮かべた。
「確かに、俺の方がそういうのは向いてるかもね。
学生の頃も塾講師と家庭教師やってたし。
それに——」
ガクは立ち上がり、僕の左手を取った。
突然のことで、僕は固まって思考が停止する。
「それに俺、イオリが『これ』を嵌めてステージで演奏する姿、見てみたいな」
ガクは僕の左手薬指に嵌った指輪を触りながら言った。
「——うん。やっぱイオリは人前で演奏してこそだよね。
せっかく素晴らしい腕前を持ってるんだもん、俺も沢山の人に聞いてもらってこそな気がしてきた」
——きっとガクは、僕が人にものを教えるのに向かないことを分かっていて、プレイヤーであるべきだと思い直したのだろう。
僕は生まれてからずっと、こう演奏しなさいと父親や講師たちから教えられるばかりのバイオリン人生だった。
人と打ち解けるのも苦手だし、僕が心を開いて、相手にも心を開いてもらって、わかりやすくレクチャーするということが難易度高いと思われたんだな。
少し悲しいけど、事実だからしょうがない。
「僕がステージに立てる日なんて来るのかな……」
そう呟いた時だった。
僕のスマホから着信音が流れてきた。
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