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-イオリ-再出発②
コンサート当日。
プログラムの趣旨としては、20代を中心とした若手の日本人バイオリニストばかりを集めたステージとなっている。
前半の部では各バイオリニストが一人ずつステージに現れ、ピアノ伴奏と共にソロで演奏。
一人あたり二曲の音楽を奏でる。
後半の部ではヴィオラやチェロ、コントラバス、ハープといった弦楽器も合流し、全バイオリニストが一堂に介して演奏するという華やかなプログラム。
僕は前半の部の中でも最後に登場するバイオリニストとしてプログラムに記された。
一緒に出演するバイオリニストの中には、藝大時代の先輩や後輩がいたり、メディア出演も豊富な人がいたりと知った顔も少なくない。
後半の部での合奏のために、リハとして何度か全員で顔を合わせた時には
僕が久しぶりに出演すると聞いて驚いた、と声を掛けてくる人もいた。
業界内でも僕が『どこかから圧力をかけられているらしい』という噂が囁かれていたようで、事務所に入った事を知り驚いたと告げる人もいた。
ともあれ、コンサートは幕を開けた。
僕は自分の出番が来るまで控え室で待機することになった。
指先を温めながら、控え室に設置されたモニターで会場内と中継されている映像を見つめる。
映っているのは当たり前だけどステージの上ばかりで、客席側はほとんど映り込んでいない。
けれど、この暗がりの群衆のどこかにきっとガクがいるのだと思うと胸が熱くなる。
ようやく、ステージの上に立つ僕をガクに見せてあげられる。
ガクのことを、僕の演奏で少しでも幸せな気持ちにしてあげられたら、僕にとってこんな嬉しいことはない。
僕はバイオリンのことがずっと嫌いだった。
人に強いられ、目標もなくこなす練習は無価値に思えていた。
今は違う。
僕は僕の意思でバイオリンを握っている。
ガクに聴いて欲しくて、バイオリンと向き合っている。
バイオリンのことを、胸を張って好きと言えるか——それはまだ自信がない。
だけど僕にとって大切な相棒だと言える。
苦楽を共にしてきた——ほとんどは苦だったけれど——バイオリンと、僕は再び舞台に立つ。
時が来て、僕は控え室を出ると、バイオリンと共にステージへ上がった。
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