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-イオリ-再出発⑤
「そうでしょうか……?」
自分ではそんな自覚は無かった。
弾いている間はとにかく曲と向き合うことで精一杯だったから、自分の上手い下手は全く測る余地もなかった。
「それに——『アヴェ・マリア』は本当に圧巻だった。
有名な曲だし、私も何度も音源は耳にしたことのあるものだったけれど——
あんなに素晴らしい『アヴェ・マリア』を、私は他に知らない」
——早苗さんの言葉で自信がついた僕は、後半の部で自信を持って弾くことができた。
他のバイオリニストや楽器奏者たちとの合奏ということで、ソロを務めた前半よりリラックスして臨めたこともあって、僕は気持ちとして伸びやかに演奏することができたと思う。
すべてのプログラムが終了し、僕は他の演者さん達と共に控え室へ戻った。
控え室には、今日のコンサートに来場したお客さん達からの差し入れのお花や菓子が届いていた。
『◯◯様』と、特定の演者に向けて預けられた花束もあれば、『みなさんでどうぞ』と全員に向けての差し入れなど様々。
その中で、僕の席の机にもいくつか花束が届いていることに気がつく。
『本日はお疲れさまでした。パートナーと一緒に楽しませていただきました。R.A』
そうメッセージカードに添えられた、一際目を引く洋花の束は、麗華が預けてくれたものだろう。
そっか、麗華も観にきてくれたのか。
パートナーの彩花さんと一緒に。
『素敵な演奏でしたね。ぜひまた舞台の上で楽器を奏でるあなたの姿を観に行かせてください。父と母より』
一瞬、どきっとしかけて、すぐに気づく。
これは——ガクのお父さんとお母さんからの差し入れだ。
メッセージカードが添えられていたのは、ガクの地元の銘菓詰め合わせボックス。
ガクのお父さんとお母さんが、『父と母』と書いてくれたことに、僕は思わず感極まってしまった。
そしてもう一つ——
メッセージカードの添えられていない花束。
差出人は書いていないけれど、僕はそれがガクからの贈り物だとすぐに分かった。
花束の組み合わせが、僕の好きな花や色でまとめられていたから。
自分の好きな花だとか、色だとか、そんなことを人に話したのは後にも先にもガクだけだから——
僕が頂いた品々を大切に持ち帰る準備をしていると、控え室に早苗さんが入ってきた。
他の演者さん達の波をかき分け、僕の元までやって来た早苗さんは、廊下で話がしたいと言い、付いてくるよう示した。
僕がその背中についていくと、早苗さんは控え室の扉を閉めた後、少し声を震わせながら言った。
「イオリ君……!
あなたの、海外でのソロコンサートが決まったわ……!!」
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