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-イオリ-再出発⑧
ご馳走を食べ終わって、寝る支度を済ませる。
僕がシャワーと歯磨きを終えて寝室へ行くと、ガクはベッド横のサイドテーブルにノートパソコンを開いていた。
「……仕事?」
「うん、ちょっと急ぎの確認案件が入って来て」
ガクは遅くまで残業することも多いけれど、家に持ち帰って作業していることもある。
入社三年目の会社員って、みんなこんなに忙しいものなんだろうか?
ガクは人が良いから、他の人の仕事まで巻き取ることもあるようだし、働き過ぎじゃないかと心配になる。
それに——
「……コンサートの出演が決まってから数ヶ月、僕、スタジオに入り浸ってた」
「うん、そうだったね」
「たまに早く帰って来た時も、ガクが家に持ち帰ってきた仕事をやっていたり……」
「?うん」
「……何か、思わない?」
僕は、ガクに気づいて欲しくて、そう問いかけた。
「……えーと?パソコンの画面が眩しくて寝れないってことなら、リビングに移動して作業するけど」
「ここにいて良いから、早く終わらせて、残業」
もしかしたら、パーティーの準備をするために、今まで仕事をする時間が取れなかったのかもしれないけれど。
「だいたい今日、土曜日でしょ。
土日に残業しなきゃいけないなんて、会社の規定どうなってるの」
「んーーまあちょっとグレーだけど、実際その日にやらないと回らない業務もあったりするんだよね」
「入社三年目の社員が土日も働かないと回らないような職場が悪い」
「はは、言えてる。まあちょっと作業したら俺も寝るよ」
「……寝ない……」
僕は無意識のうちにパジャマの裾を握り締めていた。
恥ずかしさと緊張で、顔に熱が集まるのを感じる。
「……ガクが残業終わるまで、寝ないで待ってるから……ッ。
だから……久しぶりに……したぃ……」
声が尻すぼみになってしまった。
僕は恥ずかしさを押し殺して、恐る恐るガクを見た。
「——爆速で終わらせる。
ちょっと待ってて」
ガクはそう言うと、僕のパジャマをぺろりと捲り上げた。
「っ!?」
ガクは、僕のお腹に口付けてきた。
ぶるりと全身が震える。
「イオリは布団の中で『準備』してて」
そう言ってガクは、爆速で終わらせるためか、寝室の小さなサイドテーブルからリビングの方へ移動して行った。
……言っちゃった。
自分から、したいって……。
普段はガクの方から誘ってくれることがほとんどで、僕はその流れに身を任せてきたけれど——
ここ数ヶ月はどちらかが寝室で先に寝てしまっているような生活が続いていた。
コンサートが終わって、土曜日の夜なら、きっと——と思っていたのに、ガクが仕事なんてしているから。
自分から言うのはとても勇気がいったけれど……
今夜は絶対したかったから……。
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