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-加納早苗-エピローグ④
本当に奇跡としか言い表せない連続だった。
皐月くんは元の時代に戻った後、そのまま時が流れて、今は43歳の姿で私の前に座っている。
そしてそーちゃんは……
43歳で亡くなった後、『如月奏』としての記憶を持ったまま生まれ変わり、
20歳になった姿で私の前に姿を現してくれた。
そーちゃんは新しい両親の元に生まれ、名前こそ変わっていたけれど、
顔も、話し方も、性格も何もかもがそーちゃんそのままだった。
前世の記憶を持って生まれ変わったそーちゃんは、20年間、皐月くんを探し続けていたらしい。
ようやく最近になって、地方でピアノ教室を開いていた皐月くんの居場所を突き止め、再会できたのだと語ってくれた。
皐月くんも、イケメンで人当たりが良いから恋人や妻がいても全くおかしくなかったのに、そーちゃんのことを思い続けながら20年の歳月を過ごしてきたらしい。
二人とも、こんなに長く一人を愛することができるのだと、私は驚くと同時に羨ましくも思った。
私も結婚してからは右京さん一筋だけれど、それは右京さんが常に側にいて、愛情表情をしてくれていたからであって、
もう会えない(と思っていた)相手を20年も想い続けることなんて、きっと私にはできない。
そんな強い思いを持った二人同士が再び巡り会えたのは、二人で手繰り寄せた奇跡としか言いようがない。
私は、パートナーシップを結んで一緒に暮らすようになったことを報告してくれた二人に、イオリくんのコンサートへ行かないかと誘った。
そーちゃんは『バイオリニストは一人も知らない』と言っていたけど、ピアノの先生をしていた皐月くんはさすが、『有名なバイオリニストの方ですよね』と反応してくれた。
私が彼をマネージメントしていたこと、彼もまた同性の恋人とパートナーシップを結んでいることを話すと、二人はイオリくんに興味を持ってくれたらしく、コンサートへ行ってみたいと答えてくれた。
こうして私達は、『コンサートが始まるまでお茶でもしましょう』と言ってカフェに集まった。
奇妙な運命の巡り合わせによって、年齢こそバラバラの形での再会になったけれど
右京さん含め、こうして四人で話していると、20代の頃に戻ったような懐かしい気持ちになる。
「——いけない!そろそろコンサートが始まるわ。ホールに移動しましょ」
私は時計を見て、慌てて席を立った。
そーちゃん達とのこれまでや、イオリくんについて話していたら、うっかり何時間も話し込んでしまっていたみたい。
私と右京さんで会計を済ませ、先にお店のドアを出ると、少し遅れて皐月くんとそーちゃんが出てきた。
「あらあら、手を繋いじゃって」
私は、二人が当たり前のように手を繋いで歩いてくるのを見て微笑んだ。
「恥ずかしい……」
そーちゃんはむっすりと俯きながら言ったけれど、嬉しい時にもこんな表情になることを私はよく知っている。
「『前』は、人前でこういうことをするの、俺も恥ずかしくて避けていたんですけど……。
奏にはこれくらい愛情表情をしてあげないと、すぐに拗ねてしまうので……」
皐月くんが、仕方なさげと言った様子で言うと、そーちゃんはムッとして顔を上げた。
「別に、繋いでなんて俺から言ってないし」
「じゃあ手離すよ」
「!——嫌だ」
そーちゃんはそう言って皐月くんの手をぎゅっと握り締めた。
本当に、そーちゃんは変わらないなあ。
私は二人を微笑ましく見つめた後、少し急ぎ足でホールへと向かった。
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