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第2話

 真面目な顔をする後輩にためらいつつも、熱暴走していく身体を止めることはできない。うつむきながら、御影はネクタイの結び目をゆるめ、震える指でワイシャツの前を開いていく。  強引に抱かれたらこころに傷が残るが、自分が望んだことだと思うと腹も据わる。 「ほんとうに……軽く触れるだけだからな。吸うなよ」 「はい」  ふたりしかいない夜のロッカールームは、熱い吐息で満ちていく。湿った肌をゆっくりと剥き出しにしていくと、アンダーシャツの下からくっきりと浮き立つ乳首があらわになり、天城が息を呑む。熱に浮かされたような目つきで薄手のシャツをまくり上げる後輩は、真っ赤にふくらんだ御影の肉芽を認めるなり、そこに顔を近づけてきた。 「――ん……! ん、ん、っ、ぁ、あぁ、っ……!」  舌でつつくだけ、と約束させたとおり、天城は熱くぬるついた舌先でツンツンしてくる。その大きな口がいまにもかぶりついてきそうでぞくぞくするが、会社の先輩と後輩である以上、オメガの欲望をそっくりそのまま晒すわけにはいかない。自分にだって、プライドや立場があるのだ。 「吸うなよ、吸ったら……だめ、だからな……っ」 「ん、はい、吸いません。……ヤバ……コリコリだ。先っぽがぴくぴくして、いまにもミルクがぴゅっぴゅっしそう。かわいい……先輩のおっぱい、やらしくてかわいい……あー、マジでたまんない……がじがじしたい」 「だめ、だ、絶対……吸ったら……っぁ、っ、あぁっ、舌で捏ねるの、だめ……っそれ、あぁっ、あっ、……うん……っ!」 「声、撥ねてる。いいんですか? 乳首ツンツンされて感じちゃう?」 「うん、いい、……いい、きもちい、それ、っぁ……ぁ……それ以上捏ねるのは……っ」  軟体動物のようにぐねぐねと蠢く舌に翻弄され、御影はひっきりなしに喘いだ。スラックスの前がきつくてどうしようもない。そこにこもる熱をどうにか散らそうとしたのが、天城にも伝わったらしい。軽く手をかぶせてきて、「ガチガチ」と可笑しそうに笑う。 「先輩がお望みなら、乳首ツンツンしながらこっちも触りましょうか? 扱いたりしないから。そっと握るだけで十分いいと思いますよ」 「う……」  こんな世迷い言、誰が信じられるか。胸はともかく、下肢を握るだけでイけるなんて美味しい話があるはずがない。そうおのれを戒めるのに、期待を孕んだそこはスラックスのベルトをゆるめられたとたんん、ボクサーパンツから亀頭をはみ出させるほどに昂ぶってしまう。 「……ほんとう、に……」 「はい」  恨めしい声が漏れ出る御影に、天城はやさしく微笑みかける。単純かもしれないけれど誠実で、なにがあっても裏切ることはなさそうだ。 「乳首を舐めて……下も、触るだけ、……だからな。擦るなよ」 「わかりました。約束します。舐めて触るだけ」 「……それなら……わかった」  熱心に言い募る年下の男に押し負けた格好で、御影はもじもじと下肢をくつろげる。ぶるりと首をもたげるペニスに、天城がはっと目を瞠った。それから、試すように指先でツンとつついてきて、にちゅ、ぬちゅ、と粘った音を響かせながら先端の割れ目をくすぐってきた。 「あぁぁっ……っ……!」 「トロトロだ。ふふ、先輩って下を触られるとおっぱいもビンビンになっちゃうんですね。かっわいい」 「言うな、もう……!」  苦しいぐらいに身体を密着させてくる男の愛撫と淫らな言葉に負けてしまいそうだ。  ただ胸を触られているだけなのに。肉竿を弄られているだけなのに。  身体の中にあるいくつものスイッチが繋がって、天城の言葉どおりの反応を示してしまう。  いまはもう、達することしか考えられなかった。白くまぶしい光で満たされる意識の片隅に欠片ばかり残る理性は、若い御影にみっともない姿を晒すなと警告してくるが、燃え立つ本能が勝るのはオメガだからだろうか。  全身からふわりと立ち上る甘い香りに、御影は心地好さそうに鼻を鳴らす。 「先輩のフェロモンですね……俺を酔わせて獣にしたいんだ」 「そんな――……ちが、う……でも、あっ、……あぁ、っ、胸いじりながら下触るの……っ」 「ん、気持ちいいですね。もうちょっとだけ強くおしゃぶりしてもいい? 先輩のおっぱい舐めながら俺も扱きたいけど、立ったままじゃ難しいか。じゃあえっと、うしろから抱き締めて……いや、俺のことはどうでもいいや。いまは御影さんを気持ちよくさせたい。どっちを強めに愛撫していいですか」  どっちもお断りだと言おうとして、ちゅうっ、と甘く、軽めに乳首を舌先で捏ねられる快感に身悶えた。 「吸ったら……だめ、だ……出る、出ちゃう、から……」 「なにが出ちゃうんですか」 「あっあっあっ……ミルク、と……精液……っんーっ、んっ、あっ、そこ、くりくりするのも……っ! ミルク、出ちゃう、どっちも出ちゃう……っ」 「いっぱい出しましょ」  片手で乳首を捏ねられ、もう片方の手で肉茎をふわふわと触られる甘痒い快感に背筋をのけぞらせ、反動で天城に必死にしがみついて達した。剥かれた胸から飛び出すミルクが、ぴゅ、ぴゅ、と弧を描くのと同時に下肢もじっとりと濡れる感触が広がる。 「は――ぁ……っあぁ……――ぁ……あま、ぎ……」  ここで甘噛みされたら、目も眩むような絶頂に襲われることはわかっている。射精ももっとはっきりしたかたちになるだろう。だから、怖い。怖くて踏み出せない。  ――それだけじゃ物足りなくなるから。絶対そうだ。誰とも寝たことがないけど、わかる。アルファに貫かれたがるこの身体を抑えないと。 「かわいくイけましたね。よくできました」 「ん……」  嬉しそうに笑う天城が手際よく後始末するのをぼうっと見つめ、身体をふらつかせた。

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