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第9話
――誘ったわけじゃないのに。ただ乳首がおかしくないか見てほしかっただけなのに。
腰をかがめた天城がとつぜん胸に吸いついてきて、身体がぐらりと傾いだ。
そのままきつく乳首をちゅくちゅくと吸い上げて舐め転がし、息遣いが荒くなっていく。
「っぁ……あぁ……っだめ、だ、あ、まぎ……バカ、こんなところで……」
彼の頭を両手で抱えて押しのけたいのだが、身体が勝手に動いて自分の胸に引き寄せたくなってしまう。
そのとまどいを天城も感じたのだろう。玄関脇の壁に御影を押しつけ、熱心に乳首を吸い出す。舌先で押し転がされ、音を立てて舐られるうちにそこにしっかりと芯が入り、根元から勃ち上がり始めていくのが自分でも変だ。
じわん……とふくらむ御影の肉芽を指でつまみ、きゅっきゅっと揉み込む天城の顔は真剣で、よけいな言葉をかけるのもためらってしまう。
ここで変に怒ったら、天城に悪いかなと思ったのだ。
むりやりあれこれされることに怯んでいるわけじゃない。ほんとうにいやなら、拳を固めていますぐにでも天城を殴り飛ばせる。
「ん、っん……ぁ、……っんぁ、あまぎ、そこ……っくちゅくちゅしたら、だめなんだ……っ」
「どうして? 気持ちいいから?」
「うん……うんっ……奥からせり上がってくる……あぁ、あっ、奥、あつい、なんか出る、でちゃ……う……っ……!」
じゅうっと強く乳首を吸われるのと同時にふっくらと腫れ上がった先端から、ぴゅるっとなにかが飛び出す。同時に頭のうしろが甘く痺れ、御影は首をのけぞらせて達した。胸の尖りが蕩けそうな快感は驚くほど素早く身体を包み込み、鮮やかな絶頂を御影に与えた。
「ッ、ぁ、ぁ、っ、うそ、うそだ、……っ」
まさか、胸だけで達するなんて。
続けて、ぴゅ、ぴゅ、と間欠泉のように噴き出す熱いしずくを待っていたかのように、天城は前のめりにしゃぶりついてくる。
「だめ、だめだ、また――イく……っイってる、あぁっ、イってるから……ぁ……」
「ん……でも、こっち、おもらししてないですよ……?」
チノパン越しに下肢をまさぐられて、顔じゅう熱くなる。そこがむくりと盛り上がるのが伝わってくるが、確かに射精しているわけではない。
御影もなんと言えばいいのかわからないが、胸を吸われ、底なしの快感にたゆたった挙げ句、乳首の先からなにかを飛び出させたみたいだ。
「ああ、また先輩のミルクを吸えるなんて夢みたいだ。おいしい……もっともっと飲みたい。御影さんのおっぱい、大好きです」
「あ、まぎ……」
「繋がりながらおっぱい吸えたら、俺、めちゃくちゃ感じちゃう。先輩はどうなんでしょうね? ガン突きされながらくりくりって乳首捏ねられて、いっぱい吸われたらどうなるんだろう。あなたもかわいくよがっちゃうのかな……綺麗なその顔で俺のこれを搾り取ってくれるのかな……ねえ先輩、しちゃいたい。あなたを抱きたい。全身に噛みつきたい。裸にして、首筋も胸も先輩のかわいいあそこもいっぱいぺろぺろしてあげます。舐めて齧って蕩かして、俺がほしいって言わせたいな。バキバキのものでうしろからたっぷり朝まで突き上げて、最後は一緒にどろどろになりたい。俺、精液多めだから、あなたの中に出したら絶対あふれちゃうな。あなたの内腿をとろとろーって垂れ落ちる俺の精液、見たい……御影さんの綺麗なお尻、見たい……かわいく震えて、俺を奥まで呑み込んで……おいしそうに太い筋もしゃぶりつくしてるところも見たい。もっともっと中に出して、って言わせたい」
「おまえ……っどこでそういう言葉遣い、覚えてくるんだ……」
御影はほとんど縁がないまま過ごしてきたが、世の中にはエロ本やエロゲ、エロ動画がふんだんにあることぐらいは知っている。ネットで調べ物しているときに、その手の広告を目にすることがあるのだ。しかし、天城はそのすべてを越えてくるのが怖い。
「こういう俺は……いや?」
「いやじゃない」
窺うような声音に思わず即答してしまった。
ほんとうにいやではないのだ。困ったことに。
ただ、あまりに簡単になびきすぎだろうかと考え込むことが多かった。
彼はαで、自分はΩだ。理性ではけっして抗えない運命の番だからしょうがないと誰かに懇々と説教されても、製薬会社で開発主任をまっとうしてきた理系としての意地で未練がましくあがいてしまう。
――世の中の大半のことは理詰めで説明できる。太陽が東から昇り西へ沈むのはどういう仕組みか。月の満ち欠けによって潮が引いたり満ちたりするのはなぜなのか。若いときはどうして時間がゆっくり進むのか。一足す一は二が正解のひとつだが、それ以外の回答もじつはある。そんなことを私はいくらでも述べられる。理性ですべて片付けられるはずなのに、いま、私のこころはそうじゃない。
「じゃあ、俺のことどう思ってます?」
「……怖い」
「え。あ、ということは……やっぱだめなのかな。もうやめたほうがいい?」
「だめだ、やめちゃだめだ絶対」
無自覚に放った言葉は、確かな殺し文句として後輩の胸をまっすぐ貫いたようだ。
「おまえをこれ以上好きになるのが怖いんだ。本音を晒すことになったら、私はもっとみっともなくなってしまう。ミルクを出すだけじゃすまない気がする」
「先輩……」
なんてことを言うんですか、と低い声で呟き、天城はどこかつらそうにも見えつつ、だが恍惚とした表情を向けてきた。
「……望むところです。俺だってどれだけ勇気を振り絞ってここにいると思います? バーで出会った夜からずっとあなたのことばかり考えてきたって言いましたよね。もう一度会いたくても、夜の店ですれ違っただけの関係じゃなにも掴めなくて。お互い、あの店は初めてでしたもんね。だから、転職した会社で天城さんに再会したときは、ほんとうに夢かと思いました。神様が俺をたぶらかそうとしているんじゃないかって。でも、騙されてもいい。夢にまで見たあなたにもう一度出会えたんだ。時間をかけてあなたに近づいて、信頼を勝ち得て、ちゃんとしたかたちで交際を申し込もうとしたんですけど……その前にちょっと理性が飛んじゃって、ロッカールームで天城さんのおっぱいにキスしちゃいました」
めくるめく言葉にくらくらしてきた。
真面目な話題と淫靡な言葉が複雑に絡み合い、つい夢中になって聞き込んでしまう。
渇いた身体に天城の熱っぽい言葉が染み込み、「――は、」と息を吸い込んだ。
「おまえの話聞いてると……頭……おかしくなる……」
「あっちのベッドに行きましょ。続きはそこで」
すりっと身体を擦り寄せてきた大型犬みたいな男に、頭から喰われてしまいそうな錯覚に襲われ、御影は夢中で頷いた。
逞しいその顎でばりばりと噛み砕かれて咀嚼され、呑み込まれて、ひとつになれるならそれもいい。
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