ベッドにたどり着くなりのしかかってきた天城に顔中くちづけられ、息が上がる。 　ちゅくりと音を立てて舌先を吸い上げられると、身体の最奥に火が点く。熱の塊を蕩かすような舌遣いに惑わされ、ひっきりなしに喘いだ。 「……っは……ぁ……あ、ぁぁ……あま、ぎ……」 「俺のキス、気持ちいい？」 「ん……――いい……」 「じゃ、ここも？」 　大きな手が下肢にかぶさり、ゆるゆると這い出す。それがたまらなくいいから、拳を作って口許に押し当てた。苦しいぐらいの快感がこみ上げてきて、いまにも発情しそうだ。 「先輩のここ、もうガチガチ。しゃぶりましょうね」 「だめ、だ、そんなの……っ」 　慌てて両足をばたつかせたが、腰骨をがっしりと掴まれて押さえ込まれ、するりと下着を引き下ろされた。とたんに張り詰めた肉茎が剥き出しになり、羞恥心がぶわっとこみ上げる。 「こら、天城！　脱がすな、触るな、待て、ちょっと待て、しゃぶるのは……っ……ぁ……っ」 　ジタバタともがいても逞しい手で易々と押さえつけられ、勃ちきったそこにふうっと熱い吐息を吹きかけられた。あまりの生々しい感触に声を失い、内腿がぶるっと震えたのが答えになったのだろう。 　亀頭のちいさな割れ目を舌先でくりゅくりゅと抉る天城は、くびれをゆっくりじっくり舐め回し、そのまま竿も余すところなくくちづけていく。 　やさしく吸いつかれてほっとしたのもつかの間、射精してしまうほどにきつく吸い上げられることを繰り返され、しまいには啜り泣いた。 　すぎた悦楽に声が止まらず、犬みたいに遠慮なく舐め回す男の頭を両手で掴んだ。痛がってくれたらいいのに。怒ればいいのに。 「や……や、あっ、あぁ、っ、イく、イく、あまぎ、でる、から頭、離せ……っ」 「だーめ、このまま俺の口に出して」 「んー……っん、っ、んっ、いい、あっ、あっあっイく、……イく、イくいくいく……っ！」 　根元から大きな手でゆったりと擦り上げられたら、ひとたまりもない。どくんと身体の奥から熱を放ち、天城の口を満たした。 　細い精路を焼くような感覚に全身がびりびりと痺れ、達しても達してもまだまだあふれてしまう。それを知ってか知らずか、天城の舌技はますます淫猥さを増していく。 　気持ちいいなんてひと言で終わらない。 「あっ、あっ、ぁっ、だめ、だめだ、舐めるな……もっと、でちゃ、……っ、あぁっ」 「先輩の精液、濃くておいしい。いっぱい出せましたね。……はは、まだびくびくしてる。かわいい。こんなに綺麗でやらしい×××、初めて見た。色もかたちも最高。オメガだから愛蜜多めなのかな。もうシーツもぐしょぐしょですよ。おもらししてるみたいでかーわいい……」 「も……言うな……ぜんぶ言うなバカ……！」 　狭いシングルベッドに組み敷かれ、御影は涙が滲む喉をひくつかせながら繰り返し吐精した。淫らな言葉を吐かれれば吐かれるほど、ねっとりと濃い罠に搦め捕られていく。 　年下だけど、愛することと甘やかすことが上手すぎる天城真尋という男に。 　互いに素肌を晒し、互いに手足を絡め合わせた。ベッドが狭いから当たり前なのだが、長い手と足が蜘蛛のように深く絡み付いてくると、逃げ場を失う怖さと、もうどこにも行かなくていいという安堵と喜びがねじれながらこみ上げてくる。 「そろそろここ、触ってもいいかな」 　長い指がすうっと尻の狭間にすべり込んできて、やさしく窄まりを撫でてくる。指の腹ですりっと擦られる未知の感覚に怯えながらも、「力抜けます？」と言われて、息を深く吸い込んだ。 　この期に及んでもなお、天城を蹴り飛ばして逃げたいような気もするし、いっそ溶け合ってしまいたい高揚感も押し寄せてきて、もうめちゃくちゃだ。 「ああ……いいですね。奥からどんどん蜜があふれて、もうぐちょぐちょ。音、聞こえちゃう？」 「んっ、んっ……っ」 　オメガだから、愛撫されるとじゅわりと身体の奥から蜜をこぼす。性交をスムーズにするための身体の自然な反応に耳たぶがちりっと熱いが、天城は嬉しいらしい。 「いっぱい濡れていい子ですね、先輩は」 「いい、子……？　私が、か？」 　そんなの、誰にも言われたことがない。いたわりと甘さに満ちた言葉が胸に染み込み、身体の隅々の細胞ひとつひとつが喜びに沸き立ち、天城がすることに新鮮に答えてしまう。 「いい子ですよ。だって、俺のすることにちゃんと応えてくれてるんですよ。ほら、いまだってとろとろになった先輩の●●●から熱い蜜がとろってこぼれて、俺までどうにかなりそう。ね、ね、俺の、触ります？　どういうかたちか、知りたい？」 「し、……知りたい、……さわら、せ、てくれ」 「じゃ、脱ぐから待って」 　天城をまたいでＴシャツからすっぽりと頭を抜く男の剥き出しの胸の逞しさに、喉の奥が締まる。窓越しに射し込む月明かりで汗ばんだ肌がうっすらと輝いている。 　漲った胸筋は素晴らしく、引き締まった腰は男らしい。舌舐めずりする天城は御影を射竦めながら、ジーンズの前をくつろげて、ぴたりと張り付くボクサーパンツの縁を親指で押し下げた。 「……っ、ぁ……！」 　ぶるっとこぼれ出る男根は凄まじい大きさで、よくジーンズの中に収まっていたなと感心する始末だ。 　張り出した男根の先端からは糸を引いて蜜が垂れ落ち、びきびきと脈打つ太い筋のひとつひとつまで妖しく色づいてうねっている。知らずと喉がごくりと鳴る。　 　目が離せない。見ているだけで犯されそうだ。 「……俺の、どうですか？　気に入りました？」 　腰を突き出すようにされて、御影は茫然としつつ頷く。 「すごい、な……おお、きい……みんな、……アルファってこんなに大きいものなのか？」 「他のひとの、見たことない？」 「ない、一度も」 　未経験だと自白してしまったが、天城はまったく怯まず、太竿の根元からゆっくりと扱き上げ、くびれを指で締めつける。まるで見せつけているみたいだ。 「えっちな顔してる。バキバキの後輩×××、ほしくなった？」 「うん……」 　夢見心地で頷く。淫らすぎる言葉が脳内を濃く染め上げ、興奮してしまう。 　天城にすべてを奪われてもいい。淫らな言葉でがんじがらめにされて、頭が真っ白になっていく。 「ほし、い……おまえの……」 「俺だって。先輩とひとつになりたい。御影さんの初めての男になりたい。……するね？」 「……ん、ん……あ、……あまぎ、……っはぁ、あっ、あっ、おっき、い……っ！」 　正面から突き込んでくる天城の熱杭に、一瞬、声を失った。両足を大きく左右に開かされ、串刺しにされていると錯覚するほどに硬くて熱い天城のそれが、時間をかけてぐうっとねじ込んできて、隘路を掘り広げていく。 「んー……っ……ん……ん、く、っぅ、あぁっ、あ……！」 　媚肉をまとわりつかせて、なおも力強く抉り込んでくる男も額に汗を滲ませ、息を弾ませていた。 「先輩、好き……大好き……こんなにあったかい秘密を隠してるなんて……」 「……っぁ……あま、ぎ……おっき……っい……っ」 「もう誰にも触らせない。誰とも喋らせたくない。俺から離れないで、そばにいて、俺だけがあなたを大事にするから」 　ずちゅずちゅと太竿で甘窟をこじ開けてくる男は、中ほどまで嵌め込んだところでひとつ息を吐く。初めて他人と交わる御影を気遣っているのだろう。「大丈夫？」と言いながら上体を倒してきて、肩で息する御影の額にくちづけた。 「俺のデカいでしょ。無理させたくない」 「おおきい、けど……っ……でも、……」 「でも、なんですか」 「……うれしい」 　荒い呼吸の狭間でなんとか呟くと、額に散った汗を拳で拭う天城が目を瞠った。 「初めてだから上手に応えられないし、こんな身体、面白くないだろうけど……天城に抱かれたかったから……おまえと繋がれて、うれし……っぁ、ぁ、ん、だめだ、はげし……っ」 「かわいいこと言う子は犯す」 　怖い台詞を甘く囁く男は獰猛な律動を再開し、もっと太くて、長い肉竿を根元まで埋めてこようとする。 「好き、大好きです先輩。もっとちょうだい。俺にあなたのぜんぶちょうだい。このくちびるも、胸もミルクも、あったかい身体ぜんぶ……マジで好きで好きでしょうがないよ……どうしよ、壊しちゃいそう」 「は――……っ」 　ズクズクと突かれまくった挙げ句にくるんと身体をひっくり返され、四つん這いの格好を取った。 　御影に高々と尻を掲げさせた年下の男は、今度は背後からずんっと突き込んできた。 「あ……！　そこ、……深い……っあぁっ、あっ、あっ、いっぱいはいって、くる……」 「好き？　これ好き？　教えてください御影さん。体力バカの脳筋男の俺のここ、好き？　後輩に犯されたい？　もっともっとずんずんされたい？　ハメっぱなしにして快感で縛り付けちゃおうかな。このまま監禁しちゃおうかな。メスにされたらどうしようって怖くなる？　ガン突きされた最後にびゅくびゅく中出しされて、孕んじゃったらどうする？」 「っ……ぁ、ぁ」 　次々に怖いことを口にする男から逃げるなら、いまだ。いましかない。全身の力を振り絞って彼を蹴り飛ばすこともできる。そうすれば、自由は得られる。 　けれど、御影がほしいのは自由じゃない。彼に愛されてどろどろに溶ける不自由さだ。 　ずっとずっと、こんな烈しさがほしかった。 「いい……っもう、も、……っイきたい……っ」 「もう逃げられないよ。種付けされちゃってもいい？　怖くない？」 「おまえなら……いい、……っ怖くても、天城なら……あ、んっ、んっ、刺さってくる、あっ、あっ、またイく、イかせて……！」 「今度は中イキしましょ」 　膝頭がシーツに擦れてひりひりする。どくどくと体内で脈打つ肉竿の熱は生々しくて、だからこそ現実味に欠ける。 　自分の身体の中に、さっき目にしたあんなに大きなものが突き刺さっているとは考えがたい。くり抜かれ、こじ開けられ、きっと彼のかたちにされてしまう。肘も膝も擦れてかすかに痛いが、いちばん摩擦されている最奥はたっぷりと潤い、後輩の侵入をたやすくしてしまう。 　これがオメガの身体なのだと初めて知った。どこまでも熱くなり、アルファに抱かれることを喜ぶ。 　天城だから、抱かれたい。アルファなら誰でもいいわけじゃないことぐらい、自分がいちばんよくわかっている。 「んう……！　あ――……っ、あ、こわい、こわい、イってる、は、ぁ、っ、あまぎ……っあっ、あっ、おく、奥、とどく……」 「結腸責めもしたいけど、また今度。最初から飛ばすと、『やりすぎ』ってあなたに嫌われちゃうから」 「そんなこと、言わない……けど……っ……」 　言わないけれど、体力は限界だ。ぎりぎりまでしならせた身体のそこかしこで火花が散り、きゅうっと最奥が甘く引き攣れていく。そこをめがけて御影が貫いてきて、背後から乳首をこりこりと指でねじり上げた。 「あっ……だめ、だ……！」 「何度も何度もイかせてあげる。俺しか考えられなくなるように」 　もう、とっくになってる。 　乳首の先から白いミルクが飛び出す瞬間、最奥にずんっと太竿を埋め込まれて思わず泣きながら達した。硬くしなる性器からも多量の白蜜があふれ、何度も何度もシーツを濡らした。 「は……ごめん、……ほんと、ごめん天城、また先、イって……ごめん」 「なんで謝るの？　俺だってイくもん。綺麗なうなじ。ここ、がぶってしたい。今度ぜったいだよ。約束だよ。他の男にうなじ見せないって約束して。俺以外見ないって誓える？」 「誓う、ちかうから、……っぁ……あぁっ、太い……っ」 「でる……っ」 　烈しく腰を振ったかと思ったら、天城は素早く身体を引き、御影の背中にびゅっ、びゅっ、と白濁を打ち付けた。 「あ……！」 　中に出してくれないのか。気落ちしかける御影をなだめるように、天城はなめらかな背中に男根を擦り付けてきて、そこに白溜まりを作った。 　多すぎる精液は背中の溝に流れ、あふれて、脇腹を伝い落ちていく。ぽたぽたとシーツにしたたり落ちて染みを作る天城の精液が、あたたかい。 「……は……」 「次は、あなたに中に出したい。……好き、大好き、御影先輩」 　呟く天城が御影のうなじにかかる髪を指先でかき上げ、ちゅ、ちゅ、とくちづけを繰り返す。そこをアルファに噛まれたら最後、オメガである自分はもう天城以外の誰にも発情しなくなる。 　一生、天城の運命の番ととして、彼だけに熱を捧げて生きていくことになるのだ。しかし、天城は違う。多くの選択肢が与えられたアルファは、いつだって御影を捨てることができるのだ。 　その事実の重さを天城もわかっているのかもしれない。「大丈夫、安心してください。いまはまだ」と囁き、やさしいキスだけを残してきた。 　最初の交わりがこんなに深いものなら、次はいったいどうなるのか。 　――中に出されたら、もう元に戻れないかもしれない。孕んでしまうかもしれない。 　そう思うのに怯えるどころか、甘く胸が騒いでしまう。 　誰かひとりのものになったことがないから――言い換えれば、天涯孤独の御影は誰のものにもなったことがないから、情熱的に求めてくれた天城にならすべてをゆだねてしまいたくなる。 　……もっと、ずうずうしく踏み込んでくれてもいいのに。 　嫌だと言っても遠慮なしに暴かれたら、抗えないのに。 　自分でも情けないことを考えている。 　身体の真ん中にあるがらんどうなこころを隙間なく埋めてもらえる充足感は、あっさりとひとをだめにするみたいだ。 　――私はこんなにバカだっただろうか。 　無意識にシーツを掴んだり離したりしていると、おおいかぶさってくる天城が指と指を絡みつけてきて、恋人繋ぎを深めてくる。 　背中から伝わってくるのは、たしかな雄の鼓動。 　今夜はきっと眠れない。