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第2話「ちょっと待て!ついてるなんて聞いてません!!」
目の前にいる「リュカ」と名乗る存在は、ラヴューン彗星がもたらした奇跡に違いない。
正直、宇宙人なのか何なのかはいまいち分からない。
でもーーそんなこと、正直どうでも良かった。
俺はもう、この都合のいい現実だけでいいんだ!!
おそるおそる隣に座ると、リュカがちょこりとくっつくように隣に座り直してきた。
自然とくっつく肩と肩。感じる温もり。ふわっと香る花のような甘い匂い。
思わず肩を抱こうかと手を伸ばしかけてーーー
震える指先に気づかれないよう、そっとベッドに手を置いた。
ーーーち、違うからな!?ヘタレなんかじゃないからな!?
そんなんじゃない!
そう、これはアレだ。
リュカがあまりにも可愛すぎるからだ!!
金色の巻き毛。長いまつ毛に縁取られた潤んだ瞳。
ぷっくりとした唇。透き通るように白い肌。
その唇の端がきゅっと上がった時の、あざといくらいの可愛さときたら。
「……主水?」
名前をばれた瞬間、主水の理性が爆発するように一気に吹き飛んだ。
「千堂さんなんかっ!!目じゃねえッッッ!!!」
それは、心の中の叫び‥…
心の中で筋肉隆々な精悍なおっちゃんが、激しく大太鼓を打ち鳴らしていただけだったが、ついにガッツポーズ炸裂として現実となって現れる。
だって、だってさ!!何回見てもリュカは可愛いんだって!
360度、どこから見ても、隙なく可愛い。
くりくりの髪の毛に隠されて見えないつむじですら、可愛いに決まってる!
もちろん、千堂さんも可愛い。
でもあれは高嶺の花。
俺みたいなのが近づけるはずもない。
周りには一軍の男どもが群がってるし、俺の想いが届くはずもないってことぐらい分かってる。
いや、ちゃんとわきまえてる。
千堂さんが「え?付き合ってる人?いないよ〜。」とクラスの女子に言っていたのを聞いたことがある。
でも、あれだけ可愛いんだ。
どうせすぐに、俺じゃない誰かと付き合い始めるに決まってる!
でも…でもな!!
神は俺を見捨てなかった!!
この天使ーーリュカを、俺にもとに遣わしてくれたのだ!!
「何なのこのビジュ!!ラヴューンって何!?リアル美少女降臨イベント開催中なの!?」
もう完全にテンパる主水。脳内、完全お花畑。
大太鼓を打ち鳴らしていた筋肉隆々マッチョがお花畑でスキップすらできてしまいそうなほどの高揚感。
「ついに‥…、長かった。何もなかった俺の人生……ボーナスステージ入ったわ…」
これは漫画によくある展開じゃないか。
俺のために来てくれた美少女は、俺のことが大好きで、何をしても怒らない!
何せ、俺のことが大好きなんだからな!
しかもリュカを連れて街を歩けば、周囲の男どもは振り返る!
だが、俺はそんな視線には一切気づかないふりで、颯爽と歩く!!
くっついてくるリュカに「ちょっと離れろよ」なんて言いながら、くっつかれっぱなし!!
どうだ!羨ましいだろう、平伏せ愚民どもーーー!!
いやいや、一旦落ち着け。
妄想が過ぎるぞ、俺!
その前に、大事なことを、ちゃんと確認しなきゃダメだろ俺!!
スゥッと息を吸うと、高鳴る鼓動を整えるように胸に手を当てた。
確認することとは、そう。
リュカは「本当に、俺が触れていい存在なのかどうか」だ。
そしてーーカッと目を開くと、勢いに任せてリュカに問いかける。
「……あのさ。こ、こ、こんなこと言っていいかわかんないんだけど……ちょっとだけ……お、おっぱい、とか触っても……?」
「……うん。いいよ?」
全身から変な汗を噴き出す。
主水はごくりと唾を飲み込んだ。
恐る恐るリュカの身体に手を添える。
ふわふわの頬を撫で、透き通る首筋をなぞり、さらさらの鎖骨ラインを通ってーー
(見た目は完全に超タイプの女の子………感触も当然………)
そっ…………
(ん……?)
(んんんんんんん???)
何か、こう……フラット……というか……?
膨らみが……一切感じられないというか……?
むしろ、何か骨っぽいような…‥?
「……あの……」
「……うん?」
「い、一応聞くけど……今、そのサラシとか巻いてる……?」
「ううん。何もつけてないよ?」
「…………何も?」
何もつけてないのに……これ?
いや、まさかな?
こんな、ぺちゃ……
「変…‥かな?」
そっと不安げに見上げてくるリュカの瞳が、少し潤んで見えた。
馬鹿ッ!!俺の馬鹿野郎!!
こんな可愛い子に、こんな顔させるとか何様だよ俺!!
こんなもん……せ、成長中とか個人差とか、そういう話だろ!?
触っただけで全てを判断しようとするなんて、烏滸がまし過ぎるだろ!!!
全く、これだから童貞は困るな〜!
「私脱いだら凄いんです♡」って、よく言うだろ!?と、セルフ突っ込みをしながら、もう一度そっと確認。
「……………。」
……やっぱ、小さい。小さいっていうか、ほぼ何もない……。
いや、でもそれが何だ!!
服の上からだから、何かこんな感じなだけで、本当は柔らかいに違いない。
っていうか、そもそも!
胸の大きさなんてどうでもいいんだよ!!
どうでも……
……いや、そりゃ、本音を言えばデカい方が好きだ!!
理想としては、どこまで大きくても困らことはないんだけども!!
そんなもんはこの際、豪速球で投げ捨ててしまえるぐらいのちっぽけなものだ!!
顔が!これだけ可愛いんだからな!胸が小さいことぐらい何だよッ!!
‥…とは思うものの、主水の中には一抹の不安が走る…
(待て待て待て待て!!いやいや、そんなバカな話あるか!?この見た目で!?ついてるとか、そんなーー)
「え…、それ尻尾?」
主水の視界に入ったのは、リュカの腰元。
白くてぴるぴる動く、羊のような小さなしっぽ。
「そうだよ!主水にはないの?」
「あー…人間には、そういうの、ないかな」
「そうなんだ。でも、可愛いでしょ?」
ベッドから立ち上がって、嬉しそうにお尻を突き出して見せてくれるリュカ。
しっぽが上下にぴるぴる動いている。
そっと手で包み込むと、ぴた、と止まり、またぱたぱたと動き出す。
ほんのりと暖かいそれは、リュカの意思で動かせるらしい。
しっぽがまるで生き物のようで、どこか愛おしく思えてくる。
「本当だ、可愛いな」
思わずそう返すと、リュカが嬉しそうに笑ってくるりと体の向きを戻す。
そのときーーーー何気なく、ふとももに目が行った。
もこもこの羊のパンツの中心が……ほんのり、膨らんで、る……?
(ま、まさか……)
「なぁリュカ……その膨らみ…?」
思わず聞いた主水の言葉に、リュカはキョトンとした後、にっこり微笑んだ。
「………見たい?」
そして──。
パンツの奥で、“なにか“がムズっと動いた気がした。
主水、硬直。
「……………………えっ?」
「………………えっ?」
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ラッキースケベ(性別バグ付き)発動!
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主水、顔面蒼白で後ずさる。
「いや、いやいやいやいやいやいや!?!?!?!?」
後ずさろうにも、ベッドは狭い。
転げ落ちる主水。
「な、なんで!?なんで!?!?いや、ちょ、聞いてない、聞いてないんだけど!?!?!?」
「でも、主水“可愛い子”って言ったでしょ?」
「いやいやいや!!!“可愛い子”って言ったら普通、女の子じゃん!!な、なんで……ついてんだよぉぉぉぉ……!!」
「主水、僕を見て“可愛い”って……」
「顔はな!!!顔は!!だって、そりゃ、可愛いけど!!でも!!でもさぁ、付いてなくても良くない?!」
「……???」
「何だよ、そのキョトン顔!!!普通はなぁ!!」
「でも………好きになるかもよ??」
その一言にーーー。
「ーーーひんっ……!」
ぷつん、と何かが切れる音がした。
主水の意識が遠のいていく。
走馬灯のように、妄想の“美少女とのリア充ライフ“が通り過ぎていく。
見た目は完璧な美少女。
だが“そこ“に“何か“が“あった“。
ラッキースケベ(性別バグ付き)をくらった主水は、声にならない絶叫とともにーー
ふらりと、その場に倒れた。
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