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第6話◇桃川春季⑤

「霧島っ! ソコは大丈夫だから!」  春季は焦って身を捩るが、蓮の手は胸元から離れない。 「心配だから見せて?」 「やだ」 「なんで? やっぱり俺が弄り過ぎたせいで……」 「うわぁ! 平気だってば」 「じゃあ見せられるよな?」 「……うぅ」  蓮の話術には勝てる気がしない。春季はなぜか、ちくびを見せる羽目になってしまった。平気だと言ったのに、絆創膏を貼っているのを見せるのは、なんだか堪らなく恥ずかしい。春季は躊躇いがちに、ネクタイを外してから、ワイシャツのボタンに手をかけようとした。 「待って、俺が外す」 「えっ、なんで?」 「んー? なんかエロいから」 「霧島っ」  言い合いをしてる間に蓮は春季のワイシャツのボタンを外していく。アンダーウェアを着ているので、素肌は見えていない。 「んー? 桃川、ちくびが見えるようにめくって」 「えっ」 「めくって?」 「うぅ……」  蓮の熱の篭った強い視線と、圧のある穏やかな口調に逆らえない。操られるように、春季はゆっくりとアンダーウェアをめくっていく。素肌が少しずつ露わになっていくのを感じて、思わず目を閉じた。  蓮の思わず漏らしたため息に、春季はビクリとする。 「……ちくびに絆創膏はエロいだろ」 「だって、今朝はヒリヒリしてたから」 「剥がすぞ」 「ん」  蓮が絆創膏を慎重に剥がしていく。春季は目を開けると、だいぶ元に戻ったちくびがそこにあった。 「可愛いちくびだな……また育ててやるからな」 「ひゃん!」  そう言って蓮が春季のちくびにキスを落とすと、舌でチロチロと舐める。反対側は指で捏ねはじめた。おかげで春季は昨夜の行為を思い出してしまった。そして、重要なこともひとつ思い出した。春季は身を捩って、ちくびを両手で隠す。 「き、霧島。そういえば、写真いつの間に……」 「桃川が、ひとりでイッちゃって眠った姿が思い切り抜ける……」 「うわぁ! 消して! お願いだから消して!」 「……オカズに最高なのに」 「霧島っ!」  真っ赤な顔をして必死で言い募る春季を見て、蓮は苦笑しながら頷いた。スマホをいじると、春季の卑猥な姿が現れる。 「わかった……ほら、最高にエロいだろ?」 「み、見せなくていいからっ!」 「削除するところ、ちゃんと見ておけよ」 「……わかった」 「はい削除。はぁ、桃川。またホンモノ見せてくれよ」 「! そ、それは」 「ちくびも育てないといけないし……今夜、泊まっていくか?」  蓮が耳元で色っぽく掠れたような声で今夜のお誘いをしてきたかと思うと、カプッと耳を甘噛みしてきた。   「なっ……! かっ、帰る!」  アルコールの入っていない状態で、蓮の色気にいっぱいいっぱいになった春季は、半泣きで着衣を整え始める。  強引にベッドに引きずり込むつもりがなかった蓮は、大人しく帰り支度をする春季を苦笑しながら見ていた。  玄関までついてきた蓮は「送ろうか?」と春季にいったが、「女じゃないから大丈夫」だと返事をした。 「そうか、来週は一緒に出掛けよう。いいよな」 「……うん」  デートの約束みたいだ……と少し照れた春季の額に、蓮からキスを贈られた。思わず目を見開いた春季に、蓮は柔らかい笑顔をみせた。 「おやすみ、桃川。気をつけて帰れよ」 「あ、ああ。霧島、おやすみなさい」  蓮のマンションから帰る途中に、春季は夜道を歩きながらポツリと漏らした。 「霧島に、嫌われなくてよかった……」  今日一日、その事が一番怖かった。安堵から少し目が潤む。しかも嫌われなかったどころか、来週は蓮と一緒に過ごせるのだ。  今朝、同じ道を歩いたときとは全然違う気分で、気恥ずかしくもくすぐったい気持ちになった。春季は軽い足取りで最寄りの駅へ向かうと、自分のマンションへと帰るのだった。  ───パンツのことは、すっかり忘れてしまっていた。        

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