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第9話◇桃川春季⑦
仕事のトラブルもなく、週末になった。
土日は空けておくように蓮に言われた春季は、帰りに買い物をしてから帰宅した。
手洗いとうがいをしてから、買ってきた食料品を冷蔵庫に入れて、惣菜をレンジで温める。その間に寝室へと向かって、スウェットに着替えてきた。
温まった惣菜と今朝炊いたご飯、インスタント味噌汁で夕飯にする。惣菜は八宝菜だ。栄養バランスは大丈夫なはず。春季が食べ始めると、スマホがピロンと鳴った。
「霧島だ」
蓮とは創作和食の店に行って以来、他愛ないことでも連絡をしあうようになった。今だって「ちゃんとメシ食ってるか?」とメッセージが送られてきたところだ。
春季は、食べかけの夕飯の写真を撮ると「ちゃんと食べてるよ」と蓮に送った。すぐに花丸のスタンプが返ってきて、思わず、ふふっと笑った春季は「霧島は?」と送る。
すると半分ほど食べたペペロンチーノと、缶チューハイの画像が送られてくる。コンビニで買ったらしい。その後も何度かやり取りして、明日楽しみにしてると締めくくった。
お風呂に入った春季は、念入りに身体を洗った。ふと鏡に映った自分のちくびを見る。さっき洗った時は、なんとも感じなかった。今は普段と変わらないちくびが、あの日はとても卑猥に映っていた。あの日を思い出して自分で触れてみる。
「───っ!」
クニクニと触れていると、ツンと尖ってくるのがわかる。そうだ、ココに蓮の唇が触れたのだ。舌で弄られて感じた。ズクンと下半身が反応する。
「あっ!」
なにかイケナイことをした気分になって手を離した。春季はゆっくり息を吐いて熱を逃がした。
「ココは、霧島が育ててくれるって……」
春季は自分の本心から目を逸らしていたが、本当は期待しているのだ。また、蓮が春季に触れてくれることを。
「桃川、入って。荷物はコッチ」
「うん。お邪魔します」
お買い物デートが終わったあと、蓮のマンションにやってきた。
買い物では、お泊まりセットを買うことになってしまった。そんな気はしていた春季ではあったが、ここまであからさまに買い込むことになるとは思わなかった。
色違いのマグカップを買った時は、純粋に嬉しかった。そのあとのお泊まりセットが気恥ずかしい気分になったのだ。
「今度、スーツも置いておこう。そうすれば日曜だって泊まれるだろう」
「日曜も?」
「ダメか?」
「ダメじゃないよ。ただ霧島が疲れないかと思って」
春季が遠慮気味に言うと、蓮は楽しそうに笑った。
「俺が一緒にいたいって言ってるの。そうだ、良かったら桃川のマンションにも俺のスーツ置いておきたいな」
「霧島のスーツ……」
春季は自分の部屋に蓮のスーツが置いてあるのを想像して嬉しそうに笑うと頷いた。蓮はそれを見て近々、春季のマンションに行きたいとおねだりする。
「いいよ。霧島の着替えとかも準備しないといけないね」
「じゃあ、それは次の約束な」
春季は蓮との約束に胸を踊らせた。少しずつ積み重ねていく蓮との時間がとても大切に思える。
デリバリーで夕飯を頼んで食べながら、少しだけアルコールも飲んだ。
蓮にお風呂ができたと言われた春季は、買ってきたばかりの着替えを持って脱衣所に向かう。ドキドキしながら服を脱いだ春季は浴室でシャワーを浴びて、シャンプーで髪を洗ってから、ボディソープを使うとふわりと香りがする。
「霧島の匂いだ」
ここは蓮のマンションなんだから、当たり前のことなのに、春季は全身が蓮と同じ匂いになったことにときめく。スポンジで全身を洗うと浴槽に入った。大きめの浴槽で、ゆったり入れる。身体を洗っただけで湯あたりしそうなくらいクラクラする。
早めに浴槽から出ると、蓮が早かったな、と話しかけてきた。春季は頷いて、蓮から手渡されたミネラルウォーターを飲んだ。
「髪の毛まだ濡れてるぞ。ちょっと待ってろ」
そう言って、ドライヤーを持ってくると春季の髪を優しく乾かし始めた。
「気持ちいい」
ウットリと春季が言葉にすると、蓮は喉で笑いながら言った。
「桃川の髪の毛の手触りが良くて、俺も癖になりそう」
春季の髪を乾かし終わると、蓮がお風呂に向かった。もっと蓮に触れられたい。春季は蓮の背中をトロンとした目で見送りながらそう思った。
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