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第15話◇霧島蓮④
初めて春季を抱いてから、三ヶ月。仕事もプライベートも充実して、本当に幸せな毎日を過ごしている。触れていないところがないほど春季を開発したし、何より春季のちくびが蓮の手で可愛らしく変化していくのが愛おしい。
恥ずかしがり屋の春季が乱れる姿は、仕事中のストイックな春季しか知らない人間には想像もできないだろう……いや、想像する輩は排除しなければ。
とにかく、エロい春季に溺れている自覚はある。平日は自重しているが、週末は思う存分堪能する。
気を失った春季に執着を隠しきれず、「俺のものだ」「愛してる」「俺以外見るな」と囁いている始末。
春季の見えない場所には、執着の跡でもあるキスマークをつけている。バレたら顔を真っ赤にして怒りそうだ。それも可愛いだろうと、蓮は口元を緩める。
朝には春季が蓮にキスマークをつけようと、可愛いイタズラを仕掛けてきていて、身悶えするほどの愛しさが溢れた。可愛すぎる。モチロン美味しくいただいた。
春季は繊細だから、外ではあまり触れたりできない。本当なら蓮は、春季は自分のものだとアピールして歩きたいくらいなのだ。春季の様子を見て、親友にだけは紹介したい。
異変は、週明けに親友の大学時代の元カノである、杉本真矢に久しぶりに会ったことがきっかけだった。
「蓮!」
「真矢?」
コイツなんでここに? 親友と別れたあとに付き合った男について行って、地方に行ったはずだ。蓮は疑問に思ったが、大した興味もないので適当に相手にする。春季に興味を持たれるのが嫌で、軽く紹介しておく。
相変わらず馴れ馴れしい。これも文句を言うとうるさいので好きにさせる。週末に飲み会……春季の先約があるから却下だな。でも、今言えばうるさいだろう。
ようやく嵐が去ったと安心してみると、春季の様子がおかしい。
「桃川? どうした?」
「……何でもないよ。早く会社に帰ろう」
先を歩く春季を見て、蓮は戸惑った。頑なに、こちらを見ない春季から、見えない壁を感じる。何かあったとしたら杉本のことか。
ただの嫉妬なら可愛いが、それ以上に危うさを感じてしまう。あんな女ごときに、今の幸せを壊されるわけにはいかない。
思わずため息を吐いた蓮に、ビクリと反応している。失敗した。誤解なら早く解いてしまいたい。蓮は少し焦りを感じる。春季を失うなんて想像もしたくない。
何度か話しかけても、春季の態度は仕事以外の話しか受け付けない。元から公私は分ける春季だが、視線のやりとりや、指先に触れるなど些細なところで、蓮は幸せを感じていたのだ。
これは長引かせてはいけないと蓮は思った。今日中に絶対に誤解を解く。固い決意で、終業後の春季を捕まえた。
「桃川、話がある。コッチに来いよ」
「───っ! あ、うん」
春季に怯えられたが、蓮も笑顔は浮かべていたが必死だった。小会議室に連れ込むと、春季の壁をぶち壊すために、激しいキスで想いをぶつける。
キスから逃げようとする春季を押さえ込み、口腔内の弱いトコロを執拗に責めた。やがて春季の抵抗が弱まって縋り付いてくると、甘い声をあげるようになった。そっと唇を離して、こぼれた唾液を舐めとる。
「春季、俺を見ろ。何があった? 俺から離れることは許さないからな」
「蓮……」
ほんの僅かな様子も見逃さないように、春季の両頬を包んで瞳を覗き込む。春季が覚悟を決めたように伝えてくれたのは、やはり杉本のことだった。そこに春季が気にしていたことが重なってしまったのか。キッパリ否定してやると、甘えてくる……可愛い。蓮はちょっと意地悪がしたくなった。
「……でも、俺も避けられて傷ついたから、お仕置きな? 週末は覚悟しておけ」
「えっ!」
週末は、春季と一緒に甘く過ごしたいことを匂わす。春季がトロンと他人には見せたくない表情を見せたので、パッと切り替えて夕飯に誘う。焦った春季が可愛い。誤解が解けて安心した蓮だった。
後日、春季の目の前で飲み会をハッキリと断った。申し訳なさそうな、それでいて嬉しそうな春季が愛しい。週末に春季が言いたいことがあると聞かされた蓮は、なんだろうかと楽しみにしていた。
「蓮! 今日の飲み会来れないってホント? 私楽しみにしてたのに!」
杉本にまた会ってしまった。舌打ちしたい気持ちを我慢して返事をする。
「大事な用事があるんだよ。他のメンバーは揃ってるんだろ? なら、俺がいなくてもいいだろ」
「なぁに? 彼女にでも反対されたの? そんな心の狭い女なんてやめときなって。あ、私いまフリーなの。良かったら付き合ってあげるわよ」
「……あ、オレ先に帰る」
「待て。俺も帰るから。杉 本 、俺の意思で断ったんだ。お前になんと言われようと関係ない。俺には心に決めた人がいる。大切な人を傷つけることは許さない。じゃあな」
この女が親友と別れたのは、この無神経なところがあったからだ。蓮は春季の様子を見て、また傷つけられたかと、忌々しい気分になった。せっかく直帰にして、春季と二人きりで甘い時間を過ごしたかったのに。
途中にある、よく春季と食べに来る店からテイクアウトで夕飯を受け取り、蓮のマンションに帰る。他愛ない会話で、春季の気持ちが上向きになったみたいだ。
マンションのエレベーターの中で、蓮よりほっそりした手を繋ぐと春季が頬を染める。可愛い反応に頬が緩んだ。
二人でビールを飲みながら、夕飯を食べる。改めて、春季のことを大切だと感じた。
風呂に向かわせた春季に、蓮はドッキリを仕込んでおいた。気付くかわからないが、初めてこの部屋に泊まった時の「忘れ物」を着替えに置いておいたのだ。ついでに彼シャツ姿も見たいので、セットで置いてある。お仕置きの前菜みたいなものだ。春季がどういう反応をするのか楽しみだ。蓮は、春季が風呂から戻ってくるのを機嫌良く待っていたのだった。
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